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2005/12/08

こんな竜は竜じゃねえ~っ 『哭きの竜 外伝(1)』 能條純一 / 竹書房 近代麻雀COMICS

490【そんなわけねえ… そんなわけは………】

 ポンポンチィチィ鳴いて騒ぐはタコの証し。先ヅケ,無闇な暗カン明カンもタコの常道。手狭な手牌からリーチに裏スジ叩き込み(根拠なし),たまにカンドラ載せて大騒ぎの輩は河を見ず風を読まず場を乱す大ダコとして古来より嫌忌される。

 ところが。
 かつて,鳴くたびに手が大きくなり,役は先ヅケ,カンドラ載りまくりのスーパートンデモヒーローがいた。發カン白カンから中の対子落とし,それで發白チャンタドラ10でリンシャンヅモ。そんな「運」が東西の極道社会の命運を決するウルトラスペシャルデラックス大ダコ。それが竜,人呼んで「な,哭きの竜ぅ~!」である。

 『哭きの竜』が竹書房のコミック誌「別冊・近代麻雀」に掲載されたのは昭和60年代前半。
 深夜番組でイカサマ技が紹介されたり,逆に一発・裏ドラなどの博打要素を排した厳正な競技麻雀ルールが提唱されたりで人気雀士,人気作家が輩出,隆盛をきわめた第二次麻雀ブームがおおよそ昭和44年から60年にかけて(活字雑誌の「月刊・近代麻雀」からコミック誌「別冊・近代麻雀」「近代麻雀オリジナル」「近代麻雀ゴールド」3誌が派生したといえば当時の隆盛のほどが伝わるだろうか)。麻雀マンガとしては規格外の『哭きの竜』は,第二次麻雀ブームがピークを過ぎ,街中の雀荘も次々と灯りを消し始めた時期だからこそ一世を風靡し得たといえるかもしれない。

 寡黙で陰気で,要所になるとポン!カン!と哭いては倍満,数え役満を上がって場をさらう竜の凄み。各章には当時麻雀を打たない者にまで知れわたった名言がいっぱいだ。

  「……あンた 背中が煤(すす)けてるぜ」
  「竜~~~っ おまえの運をわしにくれや 会長(おやじ)にくれや~~っ」
  「おれの哭きは牌を喰うんじゃない 牌に命を刻んでいく やめなよ …せっかいは」
  「時の刻みはあンただけのものじゃない」
  「オレは己れの運に身をまかせたことなどない ましてや他人の運をあてにする程愚かではない」
  「悪いナ それロンだ」

 当たり前に配牌を読み,極道相手に息巻く駆け出しの雀ゴロが,桜道会甲斐組々長甲斐正三との葛藤を通して急激に神がかり的存在に変じていく1巻から2巻,そして二代目桜道会々長となる石川喬との息詰まる名勝負を描く3巻は異様なまでの迫力に満ちている。カタキ役も含め,ほとんど全ページ,名キャラ/名言/名シーンのカタマリである。全員,タコなんだけど。
 能條純一は作画にコマのコピーを多用する悪癖があり(不肖!宮嶋茂樹の写真を無断コピーした前歴さえある),一雀士の強運を極道界の覇権争いに結びつけたストーリーも強引通り越して無茶苦茶。一説によると作者は麻雀のルールを知らなかったともいう。逆に,だからこそ,常識的な打牌とはまったく無縁な強烈なキャラクターを創出できたに違いない。

 そして。
 それから十数年を経て,復活した『哭きの竜 外伝』。

 しかし,ここに描かれているのは,あの哭きの竜ではない。断じて違う。

 かつて,竜と彼にかかわる極道たちは,端役の雀ゴロにいたるまで,圧倒的な個性,リアリティに満ちていた。
 うつむき,タバコを持つ手の影から,鋭く冷たい上目遣いで対面を見つめる竜。ドスを散らつかせられようがチャカで狙われようが最後の最後にはポンカンと哭いて(そのとき牌が閃光を放つのだ!),相手を粉砕し,フッと鼻で笑う竜。
 強引あるいは理詰めな打牌で一時は点棒を稼ぎつつ,最後は竜の哭きに完膚なきまでに敗れ去り,竜の名を呼びながら死んでゆく極道たち。

 外伝は,そんな正編のおそろしく出来の悪いコピーのようだ。

 竜はこんな目の下に影をつけた,ひ弱な文学青年ふうではない。十年経った設定なのに,正編に比べても若すぎる。(添付の表紙画像のように)横目で人をうかがったりしない。哭くときに体の軸がぶれたりはしない。髪型はぽってり固まってゆるがない。名言こそ口にしたが,軽々しいお喋りではない。
 外伝において,極道,雀ゴロたちの表情はいずれもとんでもなくユルい(とくに視線。大半のコマで両目の焦点が合ってない)。久々登場,桜道会々長三上信也のほっぺたはまるでペコちゃんみたいで緊張感ゼロ。極道のくせに何度も泣くなよ三上。登場人物いずれも唇の色が妙に濃くてカマっぽい。雨宮弟も兄に比べて凄みゼロ。

 能條純一は不思議な作家で,作品は多々あるが再読に耐えるものはほとんどない。ただ『哭きの竜』正編,それも初期のおよそ3分の1のみが抜群によい。
 今さら竜の名を冠した外伝などなぜ出したのだろう。食っていけないなら,ケント紙に将棋マンガか医者マンガのコピーでも貼り付けていればよかったのに。
 もう、あの時代には戻れない。
 竜よ。竜よ~~っ。

  「フッ 終わったな……」

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