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2005/11/15

オバケの本 その十一 『稗田のモノ語り 妖怪ハンター 魔障ヶ岳』 諸星大二郎 / 講談社

824【あそこにいますよ あなたたちの 見たいものが…】

 このところバッドチューニングが舌に楽しい『栞と紙魚子』や中国の志怪に想を得た『諸怪志異』など洒脱な奇譚集が続いたため,諸星大二郎が本来怖い作家であるということをうっかり失念していた。迂闊だった。

 新作『魔障ヶ岳』は,そんなつもりで軽く読んでしまうと足をすくわれる。どのページも薄気味悪い。無闇に怖い。
 スプラッターなエグさ不気味さ,幽霊の蒼白い恐ろしさなどとは少し違う。なにかもう少し原初のというか,「祟り」の領域,境内の裏手で踏んではいけないものを踏んでしまったような怖さ。

 山伏も避けるという難所「魔障ヶ岳」の,さらに奥にある忘れられた古代の祭祀遺跡「天狗の秘所」。調査に訪れた稗田礼二郎たちがそこで出会ったものは……。
 今回の『魔障ヶ岳』は「枠組み」の堅牢さに特徴があり,その枠の中でさまざまな事象が複雑に絡み合い,220ページを読み終えるとすぐ最初のページに戻って読み返したくなる。僕の場合,電車を途中下車してドトールコーヒーに飛び込み,結局都合3回続けて読んだ。

 ちなみに「稗田のモノ語り」「妖怪ハンター」「稗田礼二郎のフィールド・ノートより」などという(主に営業サイドの都合と思しき)サブタイトルの山が示すとおり,本作は異端の民俗学者稗田礼二郎が巻き込まれた怪事件を描く「妖怪ハンター」シリーズの新作だ。同シリーズには『海竜祭の夜』『黄泉からの声』『天孫降臨』などがあり,作者の代表作の1つとなっている。
 「妖怪ハンター」は元々少年ジャンプに連載されたことからおじゃらけたシリーズタイトルが付されているが,元々のテーマは「妖怪」レベルでなく,もう少し「神話」に近い領域のモノが扱われている。

 今回驚いたのは,小道具として「旧石器捏造事件」「ラップミュージック」「イラク自爆テロ」「若者のケータイ文化」など,ここ数年の事件や若者文化が違和感なく使われていることだ。
 この作者は元来古文書や土着的な伝承から素材を借りることが少なくなく,作中に今風の風俗を描き込むタイプではなかった。今回は珍しくそれを取り入れ,またなんら違和感なくストーリーに溶け込んでいる。いや,見事に活かされている。
 もちろん「ラップミュージック」や「ケータイ」はあくまで小道具にすぎず,作者の本領たる古代からこの国の闇に伝わる怪しくも恐ろしい存在,しかも「祟り神などではない」モノを描いては余念がない。
 久しぶりに重厚かつ上質なホラー漫画を読んだ気分である。通常の意味でのおどろおどろしい場面も怖いが,それ以上に,すべてにかたがついた後の静かな黒いコマが怖い。

 モノは試し,ご一読をお奨めしたい。あなたならこのモノをどうするだろうか。

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コメント

山田さん、それってなんとも壮大でまがまがしくって手作りな感じで、ともかくたいへんうらやましい。
僕もぜひ手持ちのコミックを寄贈……
ああ、ダメだ。これは手放したくない。これも。ああ、あれも。それも。ううう。

京都国際マンガミュージアム三階のマンガの壁にあるこの漫画は俺がまんだらけ梅田店で買って寄贈したものだ!!。

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