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2005/11/01

『宗像教授異考録(1)』 星野之宣 / 小学館 ビッグコミックススペシャル

159【この目は閉じてる── 見えねえ目だ。】

 宗像教授に解けぬ謎なし。
 『諸怪志異』が6年ぶりなら,こちらは3年ぶり。こっパゲ,黒マントのヒゲおやじ,『宗像教授伝奇考』シリーズ(既刊7巻,潮出版。いずれも潮漫画文庫でも入手可)が,装い新た,発表の場も変えての復活である。

 本シリーズは,民俗学の権威──ただし学会,教授会では異端扱い──の宗像伝奇(むなかたただくす)教授が,記紀や口碑に伝わる「謎」に遭遇してはその都度思いがけない仮説や豪快な推理を示して周囲を圧倒する,というもの。

 楽しみは,なんといっても日本人が古くから慣れ親しんできた伝承や民話をまな板に乗せての奇想天外な謎解きにある。しかも,そのいくつかは宗像教授の専門分野という設定の鉄器文明伝播とからめられ,トータルとしての説得力もなかなかだ。
 各地に昔話の残るダイダラ坊をギリシア神話の巨人族タイタンに見立てる「巨人伝説」,平将門と西遊記の奇妙な一致に天海僧正までからめた「西遊将門伝」,瓜子姫とシンデレラの類似を指摘し、殺人事件をも詳らかにしてしまう「瓜子姫殺人事件」など,いずれも作者の博識,取材に基づいた展開のワザが冴える。

 もちろん,サービス精神旺盛な星野之宣だけに,文字による解説,アームチェアディテクティブに終始するわけはない。
 あるときは日本を縦断するフィールドワークに紀行ガイド,あるときは怨念濃密な土着ホラー,あるときは伝説に綾なす悲恋物語,またあるときは果敢なアクションスペクタクル(現世滅亡をはかるカルト集団に教授がたった一人で闘いを挑むような話まであり)と,一篇ごとに素材を変え,味わい,速度感を変え,エンターテインメントとして間然するところがない。
 テーマの多くはその時代時代の宗教と密着しているが,それを解明する各作には宗教臭が一切ない。それが読み切り中・短編という形式と相まって,前頭葉をほどよく爽快に刺激してくれる。たとえば,信長を酒呑童子に重ねた「酒呑童子異聞」の読後を支配する寂寥感にいたっては,異論もあるだろうが,伝奇漫画における1つの到達点と思われてならない。

 発表の場をビッグコミックに移しての新作『宗像教授異考録(1)』は,既刊の7冊に比べて最もよい出来とは正直言い難いが,新たなライバル(星野ファンならどこかで見た人物である)も登場し,今後しばらくは退屈せずにすみそうだ。まずは喜ばしい。

 ところで,この宗像教授や鯨統一郎『邪馬台国はどこですか?』『新・世界の七不思議』の宮田六郎によって示された古代史の謎解きは,本家の歴史学,民俗学の世界からはどのように見えるのだろう。凡庸な定説や根拠不明瞭な俗説より,彼らの諸説のほうがよほど説得力があるようにも思われるのだが……。

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