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2005/10/13

めざせ俳句甲子園 『アカシヤの星(3)』より「僕らは長く夢をみる」 たくまる圭 / 小学館イッキコミックス

658【僕達には伝えたい言葉がある。】

 オバケの話ばかり続くと祟りがあるんじゃないの? とご心配のあなたに(大丈夫! そんなことはめったにありません……多分……),ここらでひとつインターミッション,オバケなんて一切出てこない,すがしい作品をご紹介いたしましょう。

 2001年,ヤングアニマルに掲載された『吉浦大漁節』は,マンガ好きの間でちょっとした事件となりました。
 まわりをぐるり海に囲まれた小さな港町「吉浦」で,両親を相次いで亡くした少年カジメが真っ直ぐな気持ちを失わず健やかに成長する……などと書くとまるきり課題図書の帯ですが,まぁ実際そんなふうなお話です。
 漁師町を舞台にといえば青柳裕介『土佐の一本釣り』があまりにも有名ですが,晩年の青柳作品は,海の男とは,真っ直ぐな心とは,と「べき」を強く追求するあまり,少しばかり肩の凝る展開に陥りがちでした。それに比べて,『吉浦大漁節』は,とことんほんにゃらとこだわりなく少年と周囲の人々を描き上げています。

 『吉浦大漁節』におけるたくまる圭の画法は,大ゴマと人物のアップを多用したダイナミックな筆遣いが印象的で──ことに母親の病室のシーンはたった6ページながら大きなプールを一気に磨き切るほどの力で読み手を洗ってくれます──自然,描画に力点を置いた作品と見えてしまいますが,何度か読み返すうち,実は(決して器用ではないが)ナイーブな言葉のやり取りにこそ作者の思いが込められていることがわかってきます。だからこそ,登場人物は大ゴマのアップ,あるいは手足を伸ばしたアクションを思い切り描けばよかったわけです。

 そんなたくまる圭の最新刊が,『アカシヤの星(3)』。
 『アカシアの星』は,さまざまな国から訪れた貧しい人々の集うアカシヤ商店街の幼稚園を舞台とするやや波乱含みの佳作ですが,今回ご紹介したいのはそちらではありません。第3巻に併録されている中篇「僕らは長く夢をみる」のほうです。

 「僕らは長く夢をみる」は,たくまる圭が「言葉」へのこだわりに正面から取り組んだ作品と言えるでしょう。なにしろ,本作は「俳句甲子園」を目指す若者たちを描いた,多分マンガ史上でも初めての作品なのですから。
 愛媛県松山市で年に一度開かれる「俳句甲子園」については,「俳句甲子園ホームページ」をご参照ください。ルールや傾向と対策,第7回大会までの詳細な結果報告,対戦者各人の句まで詳しく紹介されています(うあっ,商店街の路上で予選やってるよ。いいなあ。松山に住みたいねえ)。
 「僕らは長く夢をみる」では松山の「俳句甲子園」そのものではなく,本戦に参加するための神奈川地区予選が描かれています。

 無風流なカラスめは俳句はまったく不得手で,この作品中で詠まれる俳句の一つひとつがどれほどの水準なのか,正直申し上げてわかりません。ただ,松山での本戦を目指す吉橋(部長),前野(マメ),金子の3人の高校生を(多少荒っぽく)描いたこの作品が,なにか非常に大切なことを描いていることはわかります。3人の俳句にかける思いはいかにも幼く,青い,甘いと言ってしまえばそれまでですが,その分得がたい瑞々しさにあふれています。

 万人向けとは言いがたい作風,内容ではありますが,少しでも気にかかった方はぜひとも手にとって読んでいただきたいものです。……と,ここで締めに一句ひねれればよいのですが,なかなかそううまくはイルカのしっぽ。

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