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2005/09/30

オバケの本 その三,四 『江戸怪奇草紙』『新編 百物語』 志村有弘 編訳 / 角川ソフィア文庫,河出文庫

487【いよいよ本式に祟ってきましたよ】

 『江戸怪奇草紙』(角川ソフィア文庫)は,日本近世の怪談5篇を収録したアンソロジー……なのですが,5篇という収録数,220ページ余りというボリュームも中途半端なら,編者の意図が見えてこないのも「ハテ?」な印象です。

 そもそも『江戸~』なるタイトルにふむふむと読み進むと,突然「汽車に乗る金もなし,歩いてゆくより仕方がありません」(「怪談 青火の霊」)で脱線転覆。久留米まで汽車が走るたあ,どこの国の江戸時代じゃ。
 また,「牡丹灯籠」「稲生物怪録」と超のつくスタンダードが巻頭巻末を飾るので大物古典主義かと思えば,その間に発行年も著者名も不明なマイナー作品がはさまっている。ではB級もとりそろえて恐怖を決め手に選んだかといえば怪談「累ヶ淵」の底本となった「死霊解脱物語聞書」は史実に基づいた仏教説話。そんなこんなで怪談としての色合いもまとまりません。

 もちろんアンソロジーの収録作品が長さまちまち内容まちまちなのは別に珍しいことではありませんが,その中にどのような編者の意図,こだわりが込められているか,そこがポイントかと思います。それが,感じられないのです。

 結局,主旨のはっきりしない掻き集め企画本としか伺えず(各篇のタイトルに底本にない「怪談」「妖怪談」を付けているのもなにかこしらえたふう),さりとて有名どころの怪談の資料とするには,編訳者いわく「随所に読物風の工夫を凝らした」点が気にかかります。
 訳出にあたってそれぞれどのように手を加えたかは,あとがきに「勧化的色彩の濃厚な部分や作者の感想なども一部省筆」「誤植・誤記と思われる箇所の訂正や小見出しを短くするなどの補綴」等おおまかに記されています。しかし,アンソロジー全体の意図がはっきりしないだけに,なにか不安がつのるのです。たとえば「人口に膾炙している」からと「死霊解脱物語聞書」の登場人物の名前を「塁」とするのは翻訳の節度を踏み越えていないでしょうか。これでは「稲生物怪録」にどんなオバケが何種類出てきたか,オバケのありさまは原文に忠実なのか,そういった資料としても不安が残ってしまうのです。

 志村有弘氏は中国の志怪本から捕物小説集まで,膨大な書物の翻訳,編纂にかかわってこられた方ですが,どうも全体に焦点が鮮明でなく,アンソロジーにも「ほこりっぽい」手触りが否めません。田舎のバス停横の雑貨屋の菓子棚のように,古い商品が多いだけでなく店主の志向性が見えない。翻訳,編纂作業の中から,オバケや時代小説に対する愛情,夢,恐れといったものが艶として立ち上がってこないのです。

 『江戸怪奇草紙』と同じくこの夏に文庫で刊行された『新編 百物語』(河出文庫)についても,印象は同様。
 本書では『今昔物語集』から『耳嚢』にいたるまで,有名どころの古典から,「鬼篇」「幽鬼篇」「予兆怪奇篇」「人魂篇」など八つに分けて百篇の怪異譚を紹介しています。
 しかし,あとがきによると「伝えられている『百物語』関係書からは敢えて話を取ることをしなかった」とのことなのですが,ではどういうものを選んだのか,そこが判然としません。それが読みとれないのです。

 怪談の古典を紹介する,既出作を避けて新しくアンソロジーを組む,そこまではよいのです。その選択や翻訳翻案,その折り折りの所作ににじむべく「やむにやまれぬ」もの,それがもっとページから伝わるべきだと思うのです。

 そのためでしょうか,「百物語」と称しながら百の一つ手前で留めたり,一篇分だけ通し番号を避けたりする書物が多い中,『新編 百物語』はまことに無造作に百篇に達しています。……が,通読後,天井から手が降りてきたり,奥の座敷でお女中が首を吊っていたりということはとくにありませんでした。

 ことほど左様に,いずれも尋常小学校の国語の教科書のような怪談集。オタク度,マニア色は弱いのですが,しいていえば妙なこだわりがない分,読みやすいのが長所といえば長所でしょうか。

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