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2005/08/17

仕事モードオン!! 『働きマン』(現在2巻まで) 安野モヨコ / 講談社モーニングKC

717【伝えたいのは何だ?】

 吾妻ひでお『失踪日記』を取り上げた折に「このところ,新聞の書評欄をにぎわすような,いわば文化人ウケするマンガの単行本が続いて……」と書いたのは,続いて安野モヨコ『監督不行届』,そしてこうの史代『夕凪の街桜の国』を取り上げようと思ったからだった。

 ところがこの2冊,とくに『夕凪の街』は,なんというか,自分の中のある部分と正面から向き合わないと書いてはいけないような気がして,結局形にならないままだらだらと今日に至っている。
 多分,書かないでいたほうがよい。そういう作品なのだ。

 さて,そこで『働きマン』である。

 『働きマン』は自分と対峙せずに読めるの,と聞かれると,あれっそういえばと思い当たるフシがないわけではないのだが,こちらはなんだか平気で楽しく読めるのであった。

 主人公・松方弘子(28)は週刊『JIDAI』(発行部数60万部,月曜日発売)のライター編集者。
 『働きマン』は彼女を中心に,編集の現場で働く人々の「働く」ことの意味をさまざまな角度から描き出す短編集。校了後は人と喋りながら寝てしまうほどのハードワーク,思うように動かない同僚たち,思うように企画をまとめられない自分,屈辱,疲弊,迷い,その中で跳躍的に何かが得られる瞬間,何かを失う瞬間。

 安野モヨコの絵柄はどちらかといえばかなり苦手なほうに属する。目が大きすぎる。フリーハンドでぐじゃぐじゃした印象。……
 だが,『働きマン』で,その印象がずいぶん変わった。

 アバウトな絵柄に見えて,コマ割り,人物のアップの配置が素晴らしくテクニカルなのに驚く。正面のアップには正面でなければならない理由が,右45度の苦笑いには同じく右45度の理由がある。勘によるものかもしれないが,さまざまな描写がリーズナブルに,最大効果を求めた結果となっているのだ。また,第2巻の「昔も今も働きマン」,最後の1ページが唐突に登場人物の独白で終わるなども非常に技巧的で,その技巧の的確な効果が心地よい。

 松方弘子という働きマン,その弘子の目に映るさまざまな働きマン,そしてそれをマンガに描き上げる安野モヨコという働きマン。1作め,2作め……という作品の横軸とは別の垂直な糸がおりて,『働きマン』は「働く」ことを強く,柔軟に編み上げてみせている。

 ただ,いかんせん「不覚にも涙が」というほどの心持ちになれないのは,この作品の舞台が週刊誌編集部という,ハードではあるがある意味呑気で保障された「働き場」であるせいかもしれない。いくら当人が優秀でも,本作のように周囲をどなり散らしたり,上司に反論したりできる「働き場」はそう多くはないだろう。というよりほとんどないだろう。
 早い話,思いっきり「働く」ことを許される職場というのは,案外と少ないのだ。
 その意味で,『働きマン』は,働きマンたちにとっての,ささやかなファンタジーなのかもしれない。

 ……それにしても,確かにいるよなあ,プレゼントページで何度もリテイクくらう使えない編集者。あれはいったいなぜ(なに)なんだろう?

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