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2005/05/02

触手系の本家本元 『うろつき童子(全6巻)』 前田俊夫 / ワニマガジン・コミックス 他

889【我 三千年の 眠りより 今 甦り!!】

 ラヴクラフト紹介の際に触れた「アニメビデオ(OAV)やアダルトゲームによく出現する,闇から伸びてきて美少女を蹂躙する巨大ミミズのような,あのグロい触手」だが,アニオタ,アダルトゲームマニアの間では,これをして「触手系」と称するらしい。
(「触手系」は「陵辱系」に含まれるが,「陵辱系」がすべて「触手系」というわけではない……のだそうな)

 かつて,その「触手系」の元祖と呼ばれるオリジナルアニメビデオがあった。
 『超神伝説うろつき童子』の「超神誕生篇」「超神呪殺篇」「完結地獄篇」全3部作である。
 『超神伝説うろつき童子』は,アダルトビデオとして対象を限定してしまうのが惜しいくらい実によく出来たアニメ作品なのだが,今回取り上げるのは,その原作コミックのほう。

 三千年の眠りより目覚めて甦るという伝説の「超神」を捜し求めて人間界に現れた獣人「天邪鬼」。超神であるかに見えて今ひとつ正体のはっきりしない高校生・南雲辰夫。超神の正体をめぐって獣人と対立し,南雲を襲う魔界の妖鬼たち。そして妖鬼・獣人・人間たちの欲望のままに蹂躙される女たち。……

 『うろつき童子』は昭和元禄バブル繚乱の直前,音楽CDやコンビニエンスストアが若者の生活に定着しつつあった1980年代半ば,当時元気だった官能劇画誌(早い話がエロマンガ)の東の正大関,「漫画エロトピア」(ワニマガジン社刊)に掲載された作品である。
 ワニマガジン社から発行された単行本は全6巻。発行日が6冊とも「昭和61年12月1日」となっているあたり,マイナーコミックならではという気がしないでもない。

 作者の前田俊夫は,アクの強い作家の多かった当時の官能劇画誌でも異彩を放った作家の一人で,ともかくその執拗なまでのペン入れの濃密さに特徴がある。巨根の無頼漢や淫蕩な美女をたてて,濃厚かつアブノーマルなセックスシーンを連発するのだが,写実とはまた違う意味でリアルに──つまり,妖魔,淫獣といった非現実的な存在も含め,あらゆる事象をとことんソリッドに描こうとする彼の意識は,明らかにほかの作家とは異なるものだったように思う。
 もっとも,あらゆる作家がボーダーレスにペンタッチやキャラクター,ストーリーの独自性を競ったのが当時の官能劇画誌の特徴であり,その坩堝の中からその場限りの大傑作,あるいはのちの大作家が生まれたのだが……。

 定期購読率が高かったとは思えない「漫画エロトピア」で,単行本6冊分にわたる破綻のない連載を維持するには,単に読み手に面白いマンガを提供する,あるいはエロマンガを描いて糊口をしのぐ,といった程度の動機付けでは足りなかったはずだ。
 たとえば,同時期,それなりに高い目的意識(美学)をもって描かれたと思われる村祖俊一『娼婦マリー』シリーズ(「漫画エロジェニカ」掲載)にしても,常に読み切り短編といった形しかとりえず,その結果単行本にまとめられた同作品は物語の順序もクオリティもおよそばらついたものになり果てている。

 では前田を動かしていたのは何だったのか。
 三千年の眠りから甦る「超神」が人間界を破壊しつくすというストーリーに,当時の官能劇画誌を支えていた全共闘世代の反体制意識を読み取ることはたやすい。だが,この作品が表向き示している劇画,SF,エロス,バイオレンスといった枠組みとは別の何か,作者自身の事情としか評しようのないカタマリのような目的意識は容易に説明のつくものではなく,それが『うろつき童子』を,現在でも再読に足る作品としているように思う。

 そのモチベーションが結果的に,いわゆる「触手系」という,アンダーグラウンドな嗜好の開祖となってしまったという経緯は,作者にとって望ましいものだったのか,どうか。
 前田俊夫は『うろつき童子』をもってアニメファン,ゲームファンには名をはせたが,彼の情熱はこの作品を形に仕上げたところで昇華(射精?)してしまったかのように,その後は集中を欠いた,いわゆるヌルい作品が続いている。
 ビデオ作品を含めた『うろつき童子』だけが,抜群の高みを示してくれているのだ。

 ……とまぁ,エロマンガを素面でマジメに論ずるのは難しいが,論より証拠は小泉今日子,18歳以上の方は原作,ビデオともどもご覧いただければますますもって帆立貝。

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