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2005/03/14

テレビマンの周到な言い訳? 『テレビの嘘を見破る』 今野 勉 / 新潮新書

134【とくに制作者の言葉が,視聴者やその代弁者を任じる活字マスコミの人の心に届いていない,というのが私の実感でした。】

 読み通すという一点において,『テレビの嘘を見破る』は,軽い。読書ズレした読み手なら30分程度で読み終わってしまうかもしれない。
 だが,どうだろう,同じ新潮新書の某スーパーベストセラーなどに比べると,本書はよほど「知らなかった」ことに目を向けてくれる。それも,「問題があると知らなかったところに知識が至ることで,大きな問題が明らかになる」という,痛快な知的体験を味わうことができる。例証も豊富。お薦めだ。

 著者はもともと民放の演出・脚本家で,現在テレビマンユニオン取締役副会長,武蔵野美術大学映像学科教授。
 本書ではテレビにおける「やらせ」「捏造」と「忠実な再現」の間のグレーゾーンがいかに深く広いものかを,NHKのドキュメンタリー「奥ヒマラヤ 禁断の王国・ムスタン」についての「やらせ」報道など,さまざまな実例をもとに立証する。
 その例は盛り沢山で,帯に記された
  「幻の魚は,なぜ旅の最終日に釣れてしまうのか!?」
  「聞き手の頷きは後から加えるインタビュー」
  「帰路で車の向きを変え,往路を撮影する秘境紀行」
など,読めば思わずなるほどである。
 要するに,事件の現場にたまたま居合わせ,たまたまカメラを回してでもいない限り,なんらかのドキュメンタリーは,その事象の「再現」フィルムとなる。その際,その事象をより視聴者にわかりやすく「再現」しようとすることは,そもそもが「誇張」→「歪曲」→「捏造」と裏表だというのだ。

 ここ数年間に話題になったテレビの「やらせ」に対する非難について,著者はおおむね否定的で,その多くは従来,あるいは世界各国のテレビ局で「ドキュメンタリー」の手法として採られてきたものの範疇だと主張する。
 意地悪な見方をすれば,これは制作現場の言い訳に過ぎない。だが,一つひとつの実例を追うと,必ずしもそう言い切れなくなってしまうのが,本書の面白いところである。本書全体が一種思考のロールプレイとなっているからだ。

 結果的に本書は,著者の初期の目的にもかかわらず,「ドキュメンタリー」のあり方について,堅牢な結論を導くことには失敗してしまっている。それどころか,「ドキュメンタリー」という言葉の従来の定義すら放棄して,本書は終わる。

 豊富な実例によって構築された大きなクエスチョンマークのモザイク,それが本書の限界であり,同時に成果である,とでも言おうか。ともに考える側に立つべきか,「勝手にしろ」と投げ捨てるべきか。今はまだ結論が出せない。

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