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2005/01/02

そこにいるための戦い,そして戦い続けること 『ホーリーランド』(現在8巻まで) 森 恒ニ / 白泉社JETS COMICS

021【きっと 僕がこれからする事は 今はもう ない 僕の聖地への 手向けなんだ】

 2005年の年頭にあたり,ヤングアニマルに連載中の格闘マンガ『ホーリーランド』をぜひとも取り上げたい。なにしろ,ここしばらく単行本を読み返して,いっこうに飽きないのだ。

 しかり,古今東西,面白い格闘マンガは少なくなかった。
 最初はおよそ強いとはいえない主人公が(何かに巻き込まれる形で)戦いに目覚め,拳を交わした相手と友情を結び,さらに強い相手とめぐり合うことで当人も成長していく……黄金パターンである。これで競技を選べば連載は決まったようなものだ。

 だが,連載開始当初はともかく,主人公が戦い続ける理由を明確に設定した作品ははたしてどれほどあったろうか。
 たとえば,ボクシングをテーマにして秀逸な『はじめの一歩』。この作品では,いじめられっ子が強さにあこがれてボクシングを始めるという初期の設定は単行本数冊で薄まってしまい,とくに日本チャンピオンとなって以降の一歩が何のために戦っているのか,単行本を読み返しても実はよくわからない(そのため,最近は主人公より脇役達のほうが格段に存在感が鮮明だ)。
 『明日のジョー』も,半歩引いて見ればジョーがなぜリングに上がり続けたのかはよくわからない。だが,彼の深い目に何かありそうに見えたあたりがあの作品独特の魅力だったように思う(逆に,同時期の『巨人の星』は,飛雄馬がマウンドに立つ理由の空疎さこそを描いた,ある意味野球マンガの壮大なパロディだった)。

 さて,『ホーリーランド』に登場する神代ユウは,やせて,デイパックを背負い,およそ格闘マンガの主人公らしからぬ風貌をしている。

 彼は中学生のころ苛烈な「いじめ」にあい,いわゆる「不登校」となる。そして,ただ鈍化し,何も感じなくなることを望み,部屋にこもって毎日何千と数えながらパンチを振るようになった彼がやがて自分の居場所(ホーリーランド)を求めたのは,学校ではなく夜の街だった。
 しかし,自衛のために相手を殴り返し,やがて“不良(ヤンキー)狩り”と呼ばれるようになるユウは,勝てば勝つほど夜の街に居られなくなるというジレンマに陥るのだった。……

 この作品は全編さまざまな若者達のジレンマに満ちている。主人公のユウはもちろん,それ以外の夜の街にたむろする不良(ヤンキー)達も,あるいはレスリングや空手,剣道に励む青年達も,一人一人,行き違い食い違う現実に対してゆがんだり遠回りしつつ,結局は誠実に対処していこうとする。そうしなければ居場所を失うからだ。

 現在,夜の街にたむろする若者の生態がどのようなものか,僕は知らない。今どきのケンカはこうかという疑問もある。さらに,作者の語る格闘技の薀蓄がどの程度正確なのか,門外漢ゆえよくわからない。
 だが,それらの疑問を抱えてなおかつ圧倒されるだけの切実さがこの作品には満ちている。

   僕は拳を固めてきた
   話をしに来たワケじゃない
   無事に済むとも思ってない
   怖くないワケでもない
   それでもボクは
   これからも悪意に対して
   暴力で答える

 これをただ暴走と言ってよいのだろうか。
 僕は言わない。僕は神代ユウの側にある。……四捨五入すればとうに五十歳のオヤジがそう述懐するに足る力が,この作品にはある。

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