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2004/11/15

蒔かれた種子としてのジュブナイル 『ヴァイスの空』 原作 あさりよしとお,まんが カサハラテツロー / 学習研究社 ノーラコミックス

090【空なんて ないの。】

 後世畏るべし,子供たちの記憶力はバカにできない。
 ずっと以前のことだが,妹夫婦から小学校低学年の姪,甥を撮ったビデオが届いた。そのビデオの中で,彼らは「今日見てきた映画の歌を歌います」とその日映画館で一度聞いただけのモスラの歌を歌ってみせた。あの,(いにしえのモスラではザ・ピーナッツ演ずる小美人が歌った)何語とも知れぬ雅歌である。

 自分のことでいえば,やはり小学生の頃に,従姉の部屋で読んだ学年誌の連載マンガが忘れられない。
 子供の目にも『サイボーグ009』の真似とすぐわかるそのB級SFマンガでは,悪の組織がサイボーグ戦士を体育館のような大きなフロアいっぱいに集結させ,彼らが一語一語組織の命令に服従することを見せつける。立て。右を向け。座れ。囚われた主人公たちは,縛られたままそのさまを見つめる……(このあたり,記憶があいまい)。
 もう30年以上昔の,雑誌名も月号もわからない作品,それも連載の1回分を読んだだけなので,そのシーンに至る経緯も後の展開もわからない(覚えていないのではない。読んでないのだ)。
 ただ,妙に克明に覚えているのは,その中の一コマで,悪のボスの命令にそろってしゃがむ無表情な下っぱ戦士たちの中に,ただ一人,動きが遅れているのがいたことだ。その下っぱにとくに意味があるわけではなさそうで,荒っぽいマンガ家のペンがなぜかそう描いただけだとは思うのだが……現在に至るも,会社やサークルなど,さまざまな組織の中で(よきにつけあしきにつけ)はみだす者を見るとき,思うとき,前頭葉にあの白っぽいコマが警鐘のようによみがえる。少々大袈裟に言うなら,体育会系の組織などで全員が無条件に上長に従属することに嫌悪を感じる性癖の,一種のイコンとしてそのコマがあるのだ。

 さて,『ヴァイスの空』は学研の「4年の科学」2002年4月~2003年3月号に連載されたSFジュブナイルファンタジー。
 ロボット警察「ポリツァイ」に管理された穏やかな社会に暮らすはみ出しっ子のヴァイスは,「空が見たい」と友人ネロと日々工夫を重ねる。ある日,黒いポリツァイに守られた少女ノワールと出会ったヴァイスは,思いがけない冒険に巻き込まれる。ヴァイスたちが暮らしてきた世界は。そしてヴァイスが見たがっていた空は。

 小学4年生向けなのだから,あさりよしとおらしいスプラッタな展開は期待(?)しないほうがよい。『空想科学エジソン』を3巻できれいに完結させた(2巻は少しダレたが,最終巻はけっこう泣ける)カサハラテツローも,本作ではあまり背伸びをせず,『未来少年コナン』や『ドラゴンボール』などの人気作品から雰囲気や手法を手軽に借りて,薄味に料理した印象である。
 しかし,すべり気味のギャグもたまに配して軽いタッチで描かれた作品ではあるが,その根底のストーリーはなかなかシリアスで,未来世界の選択肢を苦く問う面もないわけではない。とくに遺伝子操作で記憶を失いながら大人と子供の世代を繰り返す不老不死の「赤」の民,ルージュの設定はかなり重い。

 大人が読めば先の展開も読め,「よくあるパターン」で済んでしまうようなお話ではある。光瀬龍,萩尾望都の『百億の昼と千億の夜』から宗教,哲学的要素をざっくり削ってさらに薄めたようなストーリーといえなくもない。
 だが,小学4年という,心もほっぺたも柔らかい時期にこの作品に出会ったことはきっとその子の記憶に何かを残すだろう。「4年の科学」を毎号買ってもらえるとは限らず,連載を飛び飛びにしか読めなかった子もいるだろう,従兄姉の家でたまたま目にしたもっと小さい子供たちもいたかもしれない。だが,小学生の頃には意外とその作品の全編を通して読むかどうかは問題でない。
 彼らは連載の1回分,1回分から,まるで樹木が水分や養分を吸い上げるように,必要なものだけを読み取り,怖いものだけを心に刻むのである。それは勇気とか元気とか個性とか,綺麗な言葉で語られがちなものかもしれない。ただしそれは,子供たちが大人になって組織の中で生きていくために必ずしもプラスになるとは限らない。

 そういった勇気や個性といった属性を組織が求めるとは限らないし,何より,走って,走って,走って走って走りまくった先で,ヴァイスたちのようにもう一度「空」にめぐり合えるとは限らないのだから。

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