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2004/10/16

最近読んだ本 『ホムンクルス(3)』『御宿かわせみ二十九 初春弁才船』

009『ホムンクルス(3)』 山本英夫 / 小学館ビッグコミックス

 こちらはそのスピリッツで現在掲載中,異様なイメージと緊迫感を誌面いっぱいに展開させる『ホムンクルス』の第3巻である。

 今回は,本作における「ホムンクルス」という言葉の意味がいよいよ明らかになる。
 それは従来の「人造人間」という意味ではなく,脳科学でいうところの「脳の中の小人」のことで……と説明されるとともに作品世界にざあっと光が当たる,かといえばさにあらず,必ずしもそうとは限らない。
 むしろ,自在なイメージが理屈の枷を受けた印象。早い話,興醒めなのよ。

 頭蓋骨に穴をあける(歯が浮くようで気色悪い……)トレパネーションの手術を受けた名越の左目に期せずして見えるようになった,怪物のような人々。「ロボットの中におさまって泣いている少年」に見えるヤクザの組長や,太っているくせに厚さが2cmくらいしかないペラペラなサラリーマン。なめらかな金属でできた球体の小さな穴から相手をうかがうホームレスや,体が6つに分かれて腰の部分をウィンウィンと回転させるオシャレな女。
 彼らの姿が鮮やかであればあるほど,なぜそう見えるか理屈で説明されてしまうとなんとなくつまらなくなってしまうのだ。

 第3巻で注目したいのは,それら化け物の姿態や謎解きより,むしろ,名越と伊藤の対話シーンのほうだ。
 ホテルのレストランや喫茶店で向かい合う,彼らのかもし出すダルな雰囲気とそれに相反する密度の高い緊張感。喋る,相手を覗き込む,笑ってみせる,目をそらす,首を傾げる,そういったごくありきたりな表情ひとつひとつが異様に濃いのだ。名越,伊藤の顔のほんのちょっとした描き込みが,意識的,あるいは無意識の欺きや秘匿,不信といったものを見事に表象している。
 個々のコマはただその対話を忠実に描写するばかりで,彼らが実際のところどう感じ,どう考えたかはほとんど説明されない。したがって,彼らの互いの信頼感や疑念,関心/無関心が,1コマ1コマで常に揺れるのだ。

 『ホムルンクス』は,この対話シーンだけをもってしても,マンガ史に残したいと思う。その独自性,緊張感は,それほどのものだ。

『御宿かわせみ二十九 初春弁才船』 平岩弓枝 / 文春文庫

 文芸誌や単行本でなく文庫での付き合いだが,『御宿かわせみ』はたいがい発売日に購入,その日のうちに読んでしまう。ありていにいえばファンである。
 ただ,今回はどうもうまく作品世界,大川端に旅籠「かわせみ」のある江戸末期に入り込めなかった。
 原因はこちら側にある。

 ここしばらく海外ミステリの分厚いのを何冊か続けて読んでおり,その錆臭い空気,その饒舌な文体が脳裡にへばりついて,マンガの3冊4冊読んだ程度では振り落とせなかったため,新酒を江戸に運ぶ樽廻船をめぐる人情話や,嫁姑のいさかいに端を発する丑の刻まいり,といった話にゆったりとは入っていけなかったのだ。

 ただ,読んでいる間は気がつかなかったが,今回はわりあい殺伐とした,救いのない事件が少なくない。もう少し穏やかな本を続けて読んだあとだったならまた別の,いや,かなり違う印象をもったに違いない。

 それにしても。

> 東吾や源三郎が,この小判商人という闇の組織を相手に正面から戦を挑むことになるのは,まだ少々先の話である。

 昭和48年(1973年)2月号の「小説サンデー毎日」の第1話から30年以上かけての225作め,単行本にして29冊めで,こんな大ネタ振るか。
 平岩弓枝,昭和7年(1932年)3月15日生まれ,今年で71歳。元気。意気軒昂。

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