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2004/10/11

ある愛の 『うずまき』(全3巻) 伊藤潤二 / スピリッツ怪奇コミックス

367【…私も,もう力は残ってないわ… あなたとここに残る…】

 いつのことだったろう,毎週欠かさず購入していたビッグコミックスピリッツを読まなくなったのは。
 絵柄もストーリーも白っぽく思えて,ヘンな言い方だがある日ふと「もしや読まなくてもツラくないかも」という気になって,ひとたび離れてみると見事にツラくないものだからついついそのままになってしまった。

 1998年から1999年にかけてスピリッツに連載された『うずまき』は,だから,掲載されているのは知っていたのだが,通して読んではいなかった。

 小奇麗でわけ知り顔なスピリッツにずちゃずちゃぬたぬたの伊藤潤二……それはどうにも若干無理のある取り合わせで,あの森山塔が山本直樹になってしまったように,伊藤潤二が伊藤潤二ではなくなってしまうかも,などと考えたことを覚えている。

 『うずまき』は,主人公の五島桐絵の住む町で「うずまき」にからまる怪しい事件が次から次へと起こり,やがて町は……というストーリー。まるでスティーブン・キングだが,ことスケールの大きさや破壊の徹底度合に限っては,常に人間の身の丈(コモンセンス)をルールの核と課すキングの比ではない。

 兎に角,ホラーの素材として「うずまき」を選んだ着眼点が素晴らしい。
 「うずまき」という一種抽象的な現象が,内から外から黒渦町の人々を襲うのだが,あるときはぬらぬら陰湿腐乱,あるときは爽快なまでにスピーディかつダイナミックな個々のアイデアがまたいい。
 本作中で最もホラーらしい「びっくり箱」は桐絵を追ってくる死体を「うずまき」に結び付けたオチが秀逸だし,2巻の最終話で桐絵を見初めてどこまでも追ってくる「うずまき」……ネタバレになるので詳細は書けないが,この「うずまき」を持ち出してきた発想がすごい。そのほか,大中小小,グロテスクな「うずまき」が全編にナルト巻きである。

 ただ……アイデアに走ったあまり,各編のバランスは必ずしもよくないし,ホラー作品としての恐怖を首までねっとり味わいたい向きにはお奨めしかねる面もある。じわじわ怖くなって夜トイレに一人で行けなくなる,そういう作品ではないのだ。
 而して,伊藤作品にしては珍しく,ヒロイン桐絵は最後まで正気を失いもせず,被虐のなかにも美麗さを失わない。否,髪を切られてからの彼女は近来まれなほどに清純可憐,そんな彼女を描きたくてと見えるカットも少なくない。もっとも,その桐絵にして,「禍々しい」「狂ってる」と繰り返すばかりの斎藤秀一少年を選んだ時点ですでに──つまり最初から──壊れていたのかもしれないが(だからこそ耐えられた,という見方もできる)。
 そして,フランシス・レイ(古いぞ)が似合いそうな,妙に感動的なエンディング。

 ところで。異質なもの同士の無意識かつ偶然の出会いを礼賛し,『黒いユーモア選集』を編んだシュルレアリスムの首魁(ドン),アンドレ・ブルトン。もしも彼が存命で,終夜営業のマンガ喫茶あたりで『うずまき』を手にする機会を得たなら,はたしてどう評したか……想像するだに体がネジくねる。
 たとえば,

 「うずまきとは痙攣的なものだろう,さもなくば存在しないだろう。」

 わはははははははははははははは。うずまき,うずまき。

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