いずれがペットか飼い主か 『しゃばけ』 畠中 恵 / 新潮文庫
【仁吉も佐助も一見,屏風のぞきを怒っているようで,実は一太郎のことを器用に責めている】
日本ファンタジーノベル大賞優秀賞受賞作,また江戸人情&妖怪推理譚の人気シリーズの第1作とのことで,楽しみにしていたのだが……残念ながらなんとなく釈然としない読後感だった。
主人公の「若だんな」一太郎は,江戸有数の廻船問屋,長崎屋の一粒種。彼の周辺は,手代の佐助,仁吉(実は犬神,白沢という妖怪)をはじめ,屏風のぞき,鳴家,鈴彦姫など,なぜか妖怪だらけ。そんなある夜,こっそり家を抜け出した一太郎は人殺しを目撃してしまう……。
というお話はそれなりに面白いが,どうも上滑りして今ひとつ浸りきることができない。展開の詰めが随所に甘いのである。
たとえば。
病弱な一太郎のお目付け役たる犬神,白沢は,「そこいらへんの妖怪なぞ相手にならないほどの大物」として描かれて……いるようで,いくたびかの実戦にはなんの役にも立たない。揃いも揃って駆け出しの妖怪にたあいなくひねられてしまう。
あるいは。
一太郎は再三再四,「妖(あやかし)と人とは五感がずれているのか,どうもときどき会話が噛み合わない」といった独白をもらすが,妖怪が身近にいればそれと見破り,「妖の言葉は今日は効き目が薄いが,普段なら子守唄代わり」な一太郎の感性観念は妖怪の側にあるはずである。ならば,人間側の会話にだって同様にずれを感じるべきではないか。だいたい彼が「相変わらず妖との話は,どうにもずれる」と強調するほどには,会話はずれていない。むしろ妖怪たちの言動のいちいちは,どうにも人間ふうなのである(上の【 】の引用部など,およそ「ずれ」た妖怪のなすこととは思えない)。
もしくは。
最初の事件は,被害者の大工の首が切り落とされるという猟奇的なものであり,なぜ下手人はわざわざ戻ってきて首を切り落とさねばならなかったかが事件の大きな謎の一つとされ,一太郎は何度も首をかしげてみせる。ところが,詳細は書けないが,その謎解きたるやおやおやと首をかしげたくなるようなアバウトなものにすぎない。
そもそも。
題名の「しゃばけ」とは「娑婆気」と書き,「俗世間の名誉や俗念を離れない心。しゃばっけ」(広辞苑)のことなのだが……。本作はとくにそういうアングルの話ではない。そういう人物や妖怪を描いたものでもない。妖怪譚だけに「おばけ」に掛けているのかと考えてもみるが,それでつじつまが合うわけでもなさそうだ。
とどのつまり,要は,どうも全体にヌルいのである。
作者にはすでにこのシリーズに続編が2作ある。設定や口あたりは悪くないだけに,読むべきか読まざるべきか,うーん迷う。
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