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2004/09/20

最近読んだ本 『フン!』『短篇ベストコレクション 現代の小説2004』

Photo『フン!』 いしいひさいち / 徳間書店

 いしいひさいち描くところの山田家のポチ。彼は徹底的に乾いている。

 ハードボイルドと称されるミステリの探偵たちは,なぜか大概とんでもなくウェットだ。ヘンなたとえで申し訳ないが,湿気た岩オコシみたいな感じだ。彼らは過去にこだわり,小銭にこだわり,去った女の尻にこだわってめそめそじくじくと酒をなめてばかりいる。

 一方,ポチこそはハードボイルドである。ドライとかクールとかいう言葉では表しきれないほど,岩のように乾いている。

 かつて,このように乾いた人物が町中にもう少しはいた。
 周囲との人間関係や,金銭,男女関係など気にかけず,ただ砂を磨くように働いて日々をこなす。そのくせ,単に寡黙なのではなく,人のなすべきことについては一貫していて淀みがない。
 現在では「頑固親父」そのものが希少価値だし,たまの自称他称「頑固親父」はそうみなされることを目の隅で確認しては汲々としている……それは媚びへつらいの一様式に過ぎない。

 一億人がポチを見習うことはない。だが,一千万人くらいは,ポチのことを考えてもよいかもしれない。

『短篇ベストコレクション 現代の小説2004』 日本文藝家協会 編集 / 徳間文庫

 たまに,こういうアンソロジーを読む。
 たいていは,ヒマつぶし。

 収録作は,出版社の思惑はあるにしても,あまたの作品から選ばれるほどだからそう悪いものではない(はずである。実際,たまにはアタリがある)。好みの作家と出会う可能性だってある(かもしれない。実際にはなかなかそういうことはない)。

 本書は,浅田次郎や石田衣良,伊集院静,江国香織,岩井志麻子,川上弘美ら当節の売れっ子に野坂昭如,筒井康隆,泡坂妻夫を加えて,一作一作はなかなか面白く読めた。

 ……が,どうも違和感というか,読後感に乖離がある。

 あとになって,ふと思いあたった。
 それぞれの作品の文体が,どうもあまり短編らしくなく,短編集を読んだ気分になれなかったのだ。

 長編と短編の文体の違いというのは,それなりにあるに違いない。トルストイとポーの違い,などと括ってしまうとまじめに文体を研究している方に失礼千万だが,たとえばそういうことである。
 もちろん簡単な定義づけはできない。ポーの「アッシャー家の崩壊」のように,短編ゆえに比喩をこらして象徴主義的な文体となることもあるだろう。逆に,ヘミングウェイの「老人と海」のように,短編ゆえに表記を切り詰めてとことんクールな文体とする場合もあるだろう。
 思うに,結果としてデコラティブだろうがその逆だろうが,文体にこだわることそのものが短編の特質といえるのではないか。

 そう思って振り返ると,本書に取り上げられた作品の大半は,どうも長編向きの文体で書かれているように思われてならない。短編20作,600ページ近くが,すらりと読めてしまう。単に読みやすいということではなく,流れてしまった,(野坂を除いて)「文体」そのものにこだわりが感じられないのである。

 スムーズに読めることをよろしくないというつもりはもちろんない。しかし,長編と短編の楽しみは別だ。短編は,単に短い長編ではないはずなのだが……。

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