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2004/08/17

功夫(クンフー)の正しいあり方描き方 『セイバーキャッツ』(全5巻) 山本貴嗣 / 角川書店 ニュータイプ100%コミックス

171【あの娘には指一本…… ぐらいは触れたが まだ何もしちゃいない!!】

 「イブニング」の『俊平1/50』があっさり終わってしまった。

 『俊平1/50』は『空想科学読本』の柳田理科雄監修による近未来SFで,そう知るとタイトルからして懐かしの「ウルトラQ」の「1/8計画」へのオマージュとなっていることのツジツマが合う。
 「1/8計画」とは人口増加に伴う土地不足解消のために人間を8分の1に縮小する計画であり,うっかりその建物に足を踏み入れたカメラマンの由利子(桜井浩子)が……。

 もとい,今回は『俊平1/50』の作画を担当した山本貴嗣(やまもと あつじ)についてである。

 『俊平1/50』の連載開始時,「この見慣れたようで個性的な,シンプルなようで妙にコクのある絵柄,女キャラのアヒルを思わせる口もと……誰だったっけ」と首を傾げたが,どうしても具体的な作品が思い出せない。
 Webで検索して,ようやく記憶と結びついた。
 たとえば,数年前にヤングアニマル誌に連載された『夢の掟』。これは,超絶的な拳法使いを要人のボディガードに配し,この国の政治の将来と一対一の格闘シーンが交互に展開するという,はなはだバランスの悪い,だが妙に後をひく作品だった。おおかたの予想通り『ベルセルク』や『ふたりエッチ』のようには評判を呼ばず,単行本2冊であっさり打ち切りとなったようだ。最終回も読んでいるはずだが,思い出せないくらいだから相当中途半端な終わり方をしたのだろう。

 『夢の掟』以外にもいくつか,雑誌(主に「ジェッツ」だ……)連載時に目を通した作品を思い出し,そうこうするうちにピピっとスイッチが入り,やむを得ず(?)山本貴嗣の単行本を集めることとなった。

 はっきり言って,キャリアが長いわりに山本貴嗣がメジャーにならないのも,それなりに理由はある。

 テクニックを見れば下手ではない。否,むしろ巧いほうかと思われるし,随所に心憎いセリフも配す。しかし,読み手に楽しみを提供するより,自分の描きたいものへのこだわりのほうが常に上回ってしまう。それがあるときは食い足りなさ,あるときは悪趣味な印象さえ招いてしまう。要するに自分の中のオタク要素を消化する気のないタイプの作家なのだ。
 初期のある作品など,『コブラ』に登場するようなお尻むき出しの見目麗しい妖精同士が剣で争って,あろうことか互いの内臓を引きずり出し合う。そのくせ,全体の展開は妙にヒューマンだったりするのである。

 逆に,ある程度マンガに目が肥えた,あるいはマンガを読み飽きた読み手の目には,ひかれるところの少なくない作家といえるかもしれない。癖の強い地ウヰスキーのような印象なのである。

 今回古本屋をたずねて探し集めた中で,珍しく広くお奨めしたいのが,『セイバーキャッツ』全5巻。残念ながらいずれも絶版である。

 テンポの速い展開がよい。恒星間飛行が実現した21世紀後半,荒廃した地球を舞台に「武術界 幻の秘法」を巡って登場人物たちの思惑と能力が交錯する。
 いじられキャラのヒロイン「山猫のチカ」こと当麻智華(とうま ちか)がいい。ワイルドでプライドが高く,健気でかわいい。
 脇役の雷鳳岩(レイ フォンイェン)の男気が切ない。無骨で不器用な友情をぎりぎり照れずに済む枠内に描いて好感がもてる。

 だが,それら以上に,中国武術をベースにした主人公・宿弥光(すくね ひかる)の武術(ウーシュー)の描写が素晴らしい。
 格闘シーンがスピーディでかっこいい,とかいった次元ではない。単なる立ち居振る舞いにも目を見張らせられるものがあるのだ。黙々と功夫の鍛錬に励むシーンですら,読み手の背骨に「氣」の柱がスパンと立つ,そんな爽快な手ごたえがある。
 格闘時には静かな無表情になるのもよい。熟練した技師が機械の整備にあたる際の,淡々としつつも鋭い目である。なんというか,そうあるべき,そうでなくてはならないリアリティが感じられる。

 本作は掲載誌の「コミックGENKi」が休刊にいたったため,かなり無理やり終わらせられている。

 しかし,どうだろう。作者山本貴嗣はどちらかというと作品の締めをきっちりするほうではない。だらだら長引かせたり,作者が飽きて半端に終わらせられるより,外的要因で5冊というほどほどの長さで終わったことは,本作にとってかえって幸せではなかったか。
 ともかく,とくに第1巻。ブックオフをはしごしてでも手に取る価値ありかと思う。ただし,間違えて作者言うところの「内臓趣味」作品を入手しても当局は責任はとれないのであしからず……。

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