怖ければよい,わけではないのがつらい 『新耳袋 現代百物語 第九夜』 木原浩勝・中山市朗 / メディア・ファクトリー
【課長さんは営業だからいいですよ。泊まりがないんでしょ!】
ごくまれに,本当に怖い本というのがある。
そういう本は,読み始めるとすぐわかる。
ページを開く指の一本一本からヒイヤリした禍々しさが伝わり,何かを呼んでしまいそうで一人の家では読めず,読んだそばから「しまったしまったしまった」と後悔が背中を這い登り,もう読まないとかたした棚からは小さな耳を刺す声が聞こえたりするのだ。
本書は残念ながら,そういった一冊ではない。
また,『新耳袋』シリーズ独特の,とくに幽霊が出るとかいうわけでもないのによこしまな気配に満ち,どうにも説明のつかない奇態な空間についての話もない。
ここにいたって,「このようなものが求められているらしい」と取材対象者にもシリーズの類型が見えてしまい,無意識にそのようなものが語られている……そのような感じだ。
また,比較的ありきたりな怪談もいくつか掲載されているのだが,本シリーズの著者は稲川淳二や平山夢明らに比べると,オーソドックスな怪談を怪談として「怖く」語ることにおいては決してテクニシャンではない。
結果,結局はたいして怖くない一冊となった。
あとがきによれば「怪談はコミュニケーションツールである」が著者の持論なのだそうだ。それは,ある意味タチが悪い。つまり怪談というものがはてしない伝言ゲームとなりかねないことを示すからだ。
その結果,一つひとつの怪談は「どこか」の「友達の友達」を主人公とする曖昧模糊とした物語と化してしまう。
どこかで聞いたか読んだかしたような話でありながら稲川淳二の語りが怖いのは,彼の語りは出来事をすべて「自分が働いていたビルで」「友達と泊まった旅館で」「ゲストで出た番組で」と多少強引に己のすぐそばまで引き寄せるからではないか。
『新耳袋』については,淡々と距離をおいた記述がここ二冊ばかりは裏目に出ているような気がする。
本シリーズを未読の方には,ぜひとも第一夜から第四夜あたりをお奨めしたい。
奇妙にゆがんだ,もしくはうつろな,あるいはヒリヒリした,一日で百篇読んでしまうと本当に何かを招いてしまいそうな,いや途中ですでに背後に立たれているような,編纂中に著者が奇妙なめにあったというのが納得できる,初期はそのような本当に怖い話がたくさんあったのだ。
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