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2004/08/03

斜めにかしぐフォルムの躍動感 『リモート』(全10巻) 原作 天樹征丸,漫画 こしばてつや / 講談社ヤンマガKC

0941【素人が爆弾を作るのに参考にする文献は数がしれてる‥‥ パターンはせいぜい100かそこら‥‥ すべて頭に入っている!】

 ヤングマガジンという雑誌は,どうも粗雑なタッチ,手を抜いた背景をむしろ推奨するようなところがあって,最近の若手の作品は総じて苦手だ。
(『AKIRA』がこの雑誌に連載されていたことなど,今となってはどれほどの人が覚えているだろう。)

 『リモート』も,単行本発売時やテレビドラマが始まった折に一二度手に取ったが,ヘタなのか粗暴なのかよくわからない絵柄,パンチラを連発するセンスに購入する気になれずにいた。最近10巻をもってストーリーが完結したことを知り,決着が明らかならと数冊無造作に買い求め,その結果多少見解を変えるにいたった。

 ストーリーはシンプルで,婚約者のいる若い婦人警官が,洋館の地下に引きこもる異能警視の指示を受けて猟奇的な難事件の解決に奔走する,というもの。
 基調はヒロインが絶叫してばかりのB級サスペンスなのだが,ミステリとしてそれなりに趣向をこらしているので,暇つぶしにはなる。ただ,絵柄は荒い。事件がシリアスであるにもかかわらず登場人物の大半が(サザエさんの登場人物がそうであるのと同等の意味で)いわゆるマンガ顔。ギャグも笑えない。

 ……などと思いつつ読み進むうちに,だんだんヒロインの絵柄が気になってきた。

 本作のヒロイン彩木くるみは,素直で前向き,けなげでエロティック……とかいうキャラクター設定の問題,ではない。
 数ページに一度登場する彼女の全身像が,たいがい重心を崩して,つまりアンバランスに描かれていて,それが妙に心にひっかかる。悪くいえばやたらと身もだえしているわけだが,その不安定な構図が不思議に魅力的なのだ。

 たとえば添付は第3巻の表紙で,高校生に扮したくるみと制服のくるみを重ねて描いたものだ。この絵そのものは(とくに右手の扱いなど)決して巧みとはいい難いが,この表紙を開いたところの口絵は,この警官姿と高校生姿を前後入れ替えたものになっており,それを知るとなぜかぐらっときてしまう。

 そうした視点から作品を読み返すと,へたり込んで悲鳴を上げるくるみ,氷室警視に敬礼するくるみ,こわごわ銃を構えるくるみ,事件が解決して胸を張るくるみ……それらの奇妙にゆがんだフォルムがいちいち計算ずくのように思えてくるから不思議だ。
 バランスが崩れているということは,その状態では静止できないということだ。当たり前のことだが,本作ではそれが思い切りダイナミックにヒロインの描写に利用され,それが独特なゆっくりとした躍動感を生んでいる。

 ヒロインが独特な躍動感を感じさせる……これはコミック作品としては十分読むに足るということではある。
 とはいえ,好みが分かれそうな作品でもあり,お奨めしてよいものかどうかは少々迷う。などと紹介者に言われても困るだろうが,困ったときはとりあえず読んでみることをお奨めしたい(なんだそりゃ)。

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