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2004/06/14

取り上げられた本より面白い? 『水曜日は狐の書評 日刊ゲンダイ匿名コラム』 ちくま文庫

720【この一冊を待っていた。】

 圧倒される。
 たった八百字程度なのに。いや,たった八百字程度だから,かもしれない。

 筆名は「狐」。夕刊紙「日刊ゲンダイ」に匿名で連載された書評コラムである。掲載は毎週水曜日。今回まとめられたのは,およそ四年分にあたる二百二編,文庫にして四百四ページ。この四百四ページが,広漠,かつ濃密な海をなして読み手を満たす。

 物語によく「命を削って」なにがしかをこしらえる話が登場する。本書に漂う殺気はそれに類するものだ。
 なにしろ書き出しからして凡百の書評とは《威力》が違う。
 たとえば。

 一読,積年の胸のつかえが下りる。気持ちがいい。啓蒙されるというのは本来,このように快適なことなのだ。

安保徹著『医療が病いをつくる』(岩波書店)

 これが天才編集者の仕事である。

ヘルマン・ヘッセ著/フォルカー・ミヒェルス編/倉田勇治訳『雲』(朝日出版社)

 嵐山光三郎が気合を入れた。

嵐山光三郎『美妙,消えた。』(朝日新聞社)

 馬には乗ってみよ,ナボコフには添うてみよ。

沼野充義ほか訳『ナボコフ短編全集 II』(作品社)

 厚い。重い。千三百二十ページ余りもある。読んでも読んでもゴルゴである。

さいとう・たかを/さいとう・プロダクション著『リーダーズ・チョイス BEST13 OF ゴルゴ13』(小学館)

 全編全文,このような感じである。キレのよい名言のカタマリと言ってよい。

 なぜ,どうしたらこのような読書ができて、どのようにしたらかくのごとき書評が書けるのか。
 古今(イグナチオ・デ・ロヨラからナンシー関まで)の著述やどこから見つけてきたかというような専門書,チエーホフ,中島敦,野坂昭如にまじって東海林さだお,黒鉄ヒロシ,高野文子,川原泉,岡崎京子らがいるのも選択の自在さを顕して信頼に足る。

 丁寧に読んでみれば,決して奇をてらっているわけではない。
 書物の来歴を少ない文字数で的確に著し,その魅力と難点を遠慮なくまっすぐな言葉にしたらこうなる。……それが,難しい。本当に難しいことをこの著者はすっぱりとやってのける。

 権威ある出版社の全集本などに対して,権威への反抗としてでなく,正面からその解釈の誤りを指摘するますらおぶりも魅力的だ。底知れぬ学識をそれと意識させず,あくまで好もしい本との出会いを悦ぶその姿勢が嬉しい。

 ただし。

 書評のあまりの面白さに,紹介された本を何冊か手にとってみたものの……著者のようにあらゆる書物を読み解き,己の楽しみとするのもまた才能の1つなのかもしれない。
 いたらぬ修行,痛感である。

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