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2004/05/06

最近《ちょっと》がっかりしたコミックス 『栞と紙魚子 何かが街にやって来る』 諸星大二郎 / 朝日ソノラマ(眠れぬ夜の奇妙な話コミックス)

Photo【そう… 困ったわねえ ああいう用で来られる方は たいてい何か忘れて行くから…】

 一昔,いや二昔ばかり前までの文芸同人誌の合評会では,「直接的」というしごく便利な論評用語がまかり通っていた,らしい。
 「この事件の描写は直接的でいただけないね」
 「このエンディングでは主人公の感情があまりに直接的すぎる」
といった具合に用いて,要は「あまりよろしくない」というのを言い換えているだけ。しかし,文芸同人誌の数十枚の小説に読み手の誰をも瞠目させる描写など簡単になされているわけもなく──そんなことできるくらいなら,そんなとこで書いてたりしません──結局若い作者は自分ではロクに書きもせずただ人の作品を酷評してばかりの先輩同人に「はぁ」とうなずいてみせるしかなかったりするのであった,らしい。
 ただし,ではその「直接的」という品評論評に実がないのかといえばいちがいにそうとも言い切れず,確かに若書きの作品などに生硬というかぎこちないというか,やはり「直接的」としか言いようのない表現はあったように記憶している,そうだ。

 閑話休題。
 『栞と紙魚子』シリーズ,待望の新刊である。

 確かひとたびは掲載誌「ネムキ」に次号で最終回,との予告があったはずだが,作者が気を変えたのか編集が拝み倒したのか,とりあえず連載が終わることはなかったようだ。ファンとしては有り難いことなのだが,いかんせん新刊『栞と紙魚子 何かが街にやって来る』は何やらバタバタした印象が強く,いただけなかった。
 前作『栞と紙魚子と 夜の魚』が切ないほどによい出来だっただけに,少しの瑕でも目につくのかもしれないが……。

 本シリーズの魅力の一つとして,舞台となる胃の頭町のごくありきたりな町並みが,ぐにゃりと異界と通じてしまい,平凡と不可思議が混ざり合ってしまうことがある。
 ここで特筆すべきは,主人公たちが怪奇やモノノケが生息する異界に入り込むのではなく,生活の中に異界が点在するように現れることだ。濃い霧の向こうが異界だった,のではなく,すれ違う人の数人に一人が妙,棚の食器の数枚が自分で歩く,といったような按配。しかも,摩訶不思議な顛末に登場した妙な人物やモノノケは,そのあと,平然と胃の頭公園などに棲息するようになってしまうのである。
 この,平凡と異界,悲惨と太平楽との乱雑でソリッドな混ざりようが,体感的になんともいえない。

 ところが,今回の新刊に収録されたいくつかの作品では,従来の作品に比べ,どこか事件の展開や登場人物の言動が「直接的」なのである。

 たとえば栞が飼っている猫のボリスは一種の化け猫なのだが,今回のある作品ではほとんど主人公のように振る舞い,ドタバタコメディを演じている。化け猫としてのボリスの魅力は,もしかしたら喋るのかもしれない,喋らないかもしれない,もしかしたらモノのわかった,いやそんなはずは……といった曖昧かついい加減な猫もしくは化け猫としてのあり方にあったはずだ。それなのに,本作ではまったくのところストレートな化け猫すぎるのである(もちろん,佐賀の化け猫とはずいぶん佇まいの異なるお化け猫ではあるが)。
 また,いかにもなホラー作品「魔術」も,このシリーズでは珍しく登場人物が本当に殺されてしまうなど,悪意に満ちた魔空間がストレートに描かれている。およそ胃の頭町の事件らしくないし,そもそもこの作者の作品としても違和感が強い。
 わずかに「ゼノ奥さんのお茶」「井戸の中歌詠む魚」の二編は従来の茫洋たる作風を示してはいるが,ゼノ奥さんの庭を描いた作品なら以前のほうが格段に優れていたし,「井戸の中」もどこかピントが合っていない。また,二編とも栞や紙魚子がただの傍観者に過ぎないのがもの足りない。

 「直接的」ということでもう一つ例をあげるなら,本シリーズの名キャラクター,段先生の奥さんは,従来はドアや襖越しに手や顔の一部しか描かれないというまことに魅力的な存在だったものが,本作では再三通常の人間と同じフォルムで登場する。これがつまらなくなくて,なんだろう。

 ……連載を終了すべきとはいわないまでも,いったん休憩して,不定期掲載にしたほうが作品のためにはよかったのではないか。作者こそはゼノ奥さんのお茶を飲んで,何かを忘れてきたほうがよいのかもしれない。

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コメント

前のと比べて糞つまんなかった理由がまとめられてて
いいゾ~この記事 810931点!
昔に比べて作者の才能の枯渇が広がってないか?クソ…クソw w w

ドラマって何のこと、と最初わからなかったのですが、もしや実写版「栞と紙魚子」のことですか。そういうテレビドラマがあったのですね。もし当時それを知っていたなら!
・・まあ、見ないわな。

ちなみに、もし2004年のブログで2008年放送のそのドラマを叩くことができていたなら、それはもはや信者でなくて教祖様の領域。

掲載紙や対象年齢を考えると多少メルヘンな展開もふさわしい。
が、結局痛い信者は不満しか言わないし本来叩くべきは糞ドラマの方だろう。
アホがw

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