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2004/05/14

沈みゆく悲しみ 『深海蒐集人(1)(2)』 かまたきみこ / 朝日ソノラマ

722【アラン・ボームのカレイドスコープ…】

 3年ばかり前に紹介した『クレメンテ商会』は,コピー機やFAX機と会話をかわせる主人公を描いた,素敵にエキセントリックで,不思議にノスタルジックな作品。

 その拙評の中で

描かれたコマには,ベランダやバルコニー,橋の欄干など,高さを表す構造物があふれている。OA機器の世界は古代ギリシア風の柱が立ち並び,登場人物は階段を走り,コピー機は階上のフロアから蹴り落とされる。そして多くの場合,登場人物はその高いところに「登る」のではなく「降りる」姿として描かれる。

と書いた自分を,今はちょっとだけほめてやりたい。新シリーズ『深海蒐集人』は,地球の温暖化が進み,人類の築いた文化のほとんどが海中に沈んだ時代の女性天才ダイバーが主人公である。もう,「降りる」,いや「潜る」シーン満載。

 地球温暖化で都市が水に沈むという発想は,SF作品では枚挙にいとまがない(J.G.バラード『沈んだ世界』,椎名誠『水域』,ケヴィン・コスナー主演の映画『ウォーターワールド』など)。
 その際,人類が限られた土地を植物と動物のために割り当て,一部の限られた人々だけが陸での生活を送り,残る人々が肺や筋肉を海に適合させて海上で生活する,という設定もそう無理ではないだろう。
 驚くのはその先だ。本来なら海水に侵食されるはずの金属や木質に,水と調和する処理を施したため,街は水に沈んだままの形で生き残り,主人公は海の人々の中でも傑出したプロのダイバーであり,「図書館」の依頼に応じて海底に潜り,カードキーで目的の家に入り込み,古い絵や本,貴重品を取ってくる……。

 『深海蒐集人』は,遺跡のように静謐で神々しい海底の街と,騒音に満ちた船の上,陸の上とを行きつ戻りつして展開する。ある短編は財産や欲望にまみれたサスペンスであり,ある作品は古代都市の郷愁を招く歴史ドラマだ。

 ……書評なんて無力なものだと思う。
 『クレメンテ商会』の際もそうだったが,このような設定,あらすじをいくら書きつらねたところで,かまたきみこの作品の奇妙さ,ひたひたと満ちるような哀感はおよそかけらほどにも伝えられそうにない。

 かまたきみこは明らかに萩尾望都らいわゆる24年組の作家たちの影響下にある。が,そのわりにタッチにはあまり気を遣わないほうなのか,多くのコマはかならずしも美麗とは言い難い。また,しみじみと泣ける話なのにばたばたと笑えない三枚目が見開きを走り回ったり,主人公のミミにしても読書好きな地味な性格なのか,がちゃがちゃした元気一辺倒の性格なのか統一がとれていない。全編,驚くほど美しいコマと,一種乱雑なコマとが入り乱れる。

 だが,なにはともあれ。
 彼女が水音も立てずに水面に飛び込み,まっすぐな体で潜り,静かに扉を開けるとき,水底,かつてそこで暮らした人々の悲しみが封じ込められた世界は彼女を黙って受け入れ,彼女が絵や本を手にすると,そこには豊かな物語が水に揺れながらつむがれる。奇想というタペストリいっぱいに,ゆっくりと,音楽のように。

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