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2004/03/01

照れずに読めば少年の心もち 『暁の歌』藤田和日郎短編集 / 小学館 少年サンデーコミックス

9971【命なんざいらん。】

 初期作品のそれを逆に極限までそぎ落としてブレークしたあだち充のような稀有な例を除いて,マンガでは多くの場合「過剰」こそがウリモノである。

 少年サンデー連載の藤田和日郎(かずひろ)『からくりサーカス』はまさにその「過剰」を文字通り絵に描いた大作。努力,勝利,敗北,破壊,悲惨,復活,勇気,友情,恋慕,とっさのひらめき,高揚……ここには少年マンガに求められるものが何でもそろっている。ありすぎると言ってもよい。それらは互いに濃密にからみ合い,まるでラードとソースにひたった熱アツの焼きソバのようだ。

(連載冒頭の,からくり人形を利用した戦闘とゾナハ病をからませ,主人公・才賀勝が自分自身で闘うことに目覚めるまでは実に面白い展開だった。ただ,その後が長い。「波紋の論理」でうならせたあと延々と続いた荒木飛呂彦の『ジョジョの奇妙な冒険』と,関連人物を増やしては話を引っ張ること,絵柄や個々のイベント,決めゼリフが濃いことなど,いろいろ共通点がありそうだ。)

 さて,その『からくりサーカス』に魅力は感じるのだけれど,あまりの濃さ,ボリュームに単行本ではついていけない……という方には同じ作者の短編集がお奨めである。

 先般発売された『暁の歌』がそれだ。
 ベタが多用されていないにもかかわらず,ページを繰る手が黒ずみそうにこってり描きこまれた線。底抜けにおしゃべりな登場人物たち。その上に,作者好みの設定,場面,展開が織り込まれている。たとえば「瞬撃の虚空」における戦闘シーン,「ゲメル宇宙武器店」における少年の自覚,そして「美食王の到着」におけるマンガでなければ描けない食材描写。いずれも素晴らしい「過剰」ぶりだ。歯の浮くような純情におじさん読者としてはテレテレと面映い思いをせざるを得ないが,トイレでこっそり読む分には許してもらいたい。もちろんストーリーに多少の,いや多々破綻があったって知ったことではない。これは,これこそはマンガなのだ。

 ちなみに,藤田和日郎には『夜の歌』という第一短編集がある(1995年8月発行)。
 描線がまだいかにも下手くそなデビュー当時のいくつかの作品は別として,本書収録の「からくりの君」「夜に散歩しないかね」は必読。この二編を知らずしてこの十年のマンガ短編を語ってはならない! ……と,紹介する口調もついつい「過剰」になってしまおうというものだ。

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