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2003/12/15

ドーナツブックスいしいひさいち選集 37『蜜月マーヤの暴言』 いしいひさいち / 双葉社

37【きれいに焼けませんのやで。】

 アズキ相場の勧誘電話なら息せき切って「今,大変なチャンスになっているんですぅ!」と叫びそうな空模様である。
 というのも,なぜかこの秋いしいひさいちの新刊が立て続けで,「急いでお金振り込まなくっちゃ!」な状況なのだ。

 なにしろ。
 『となりの山田くん』シリーズの文庫化(東京創元社)を除けば,『現代思想の遭難者たち』が2002年6月の発行,その次が1年2ヶ月後の2003年8月『ののちゃんのとなり』,これにしても東京創元社の既刊文庫化。
 しかして,この秋は。

  『眼前の敵』(河出書房新社)
  『大統領の陰謀』(双葉文庫)
  『がんばれ!!タブチくん!! 阪神死闘編』(双葉文庫)
  『ドーナツブックスいしいひさいち選集 37 蜜月マーヤの暴言』(双葉社)
  『バイトくん 大学には入ったけれど』(双葉文庫)
  『忍者無芸帳 眠れる森の忍者』(双葉文庫)

 もういったいどうしちゃったの,よっぽど苦しいのか双葉社。いやそのごほん。

 もちろん,『がんばれ!!タブチくん!!』『バイトくん』『忍者無芸帳』は既刊の文庫化だが,いずれも久しく(モノによると20年以上!)入手が困難だったもので,初期からのいしいひさいちコレクターからみればこれらが簡単に入手できるようになったことに悔しい面もなくはないもののまずはメデタイと言っておこう。
 『大統領の陰謀』は『ドーナツブックス』『問題外論』『大問題』などの既刊から「大統領」系の作品をピックアップし,単行本未収録作品を加えたもの。エリツィン,ブッシュ父子,クリントン,金正日,フセインらおなじみの面々がご活躍である。

 そして,『となりの山田くん』『ののちゃん』シリーズを除くオリジナル作品集としては実に久しぶりの『眼前の敵』。河出書房新社から新書サイズという体裁もオシャレ。これは『鏡の国の戦争』シリーズの続刊にあたる戦場,軍隊モノで,「いしいひさいちはテンポを狂わすということはないのか」と思われるほどに,変わらぬ苦味を提供するブラックユーモア集である。

 ……どうもタイトル名,シリーズ名ばかり列挙して申し訳ない。

 それにしても,いしいひさいちはもはや国民的四コママンガ家として「大家」の領域に入るだろうに,この四方八方あたりかまわぬ「嘲笑」はどこから出てくるのだろう。1970年代後半,デビュー当時の『バイトくん』や『タブチくん』なら,作者自身が無名の貧乏マンガ家,つまり弱者の側にいることから理解できなくもなかった。しかし,そのスタンスが朝日新聞連載を得た現在にいたるまで続き,他国の大統領を含めてとことんとんとんオチョクリ倒す,この神経は並みではない。
 しかも,それを支える,たとえばプロ野球,推理小説,戦争映画,時代劇,政治経済,哲学等々についての広範囲な知識……。いったいいつ読んで,観戦して,取材しているというのか。

 今回の新刊,『ドーナツブックスいしいひさいち選集 37 蜜月マーヤの暴言』の巻頭には,「月子」という,どちらかといえば地味な16ページの新シリーズが掲載されている。こーれーがー,怖い。小品ではあるが,いしいひさいち初のホラーである。もちろん,怖いといっても,決してゾンビの首が抜けて血がドーバドバとか,寝ていると天井から老婆が逆さまに顔の真上にぶらんとか,そういう怖さではない。一話一話は四コマギャグなのである……が,それでもやはりホラーなのだ。
 直接の影響は指摘できないものの,ここにあるのは,ラブクラフト,クトゥルー系の闇の系譜である。それが,いつもの白っぽい四コママンガで描かれていることが,怖い。
 いしいひさいちこそは引き出しの底の見えぬ「妖怪」なのだ。

 なお,「月子」には,いしいひさいち全作品でおそらく初めての,ディープなキスシーンが挿入されている。いしい作品は足が早いので(書店店頭から消えるのが早いので),ファンの方は急ぐように。

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