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2003/11/17

読むのに時間がかかる本

 読み終えるのに時間のかかる本というのがある。

 音楽はとりあえずプレイヤーに任せておけば最後までたどり着くことはできる。
 マンガは多少好みと違ったり,展開が許しがたかったりしても,単行本1冊10数分程度で「読み捨てる」ことが可能だ。
 もちろん,音楽やマンガにも聞き流す,読み捨てることができないほどつまらないもの,耐えがたいものはある。
 映画(ビデオ)についても,見ることができずに放置しているものが少なくない。映画の場合はむしろつまらないものより,「きちんと見たい」と思うものについて,見始めて数分,数十分経ったところで「また今度にしよう」と巻き戻してしまう傾向が強いようだ。ゴダールやタルコフスキーの一部の映画がこれにあたる。

 活字の詰まった本の場合,読み進めるために必要なエネルギーは音楽,マンガ,映画の比ではない。とにもかくにも表紙をめくり,文字を目で追い,その意味を咀嚼しなければ1ページも先に進めないのだから。

 もちろん,哲学書だとか専門用語の並ぶ学術書を読了するのに時間がかかるのは当然といえば当然のことである。前者は論理の流れを追うために一句一句丁寧に言葉を消化しなければならないし,後者はものによると主語も述語も形容詞も専門用語で固められていてまるで歯が立たないことも少なくない。
 たとえば

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 形而上学を独断的に実現しようとしたこれまでの試みは全てなかったものと見なすことができるし,また見なさねばならない。なぜなら,これまでの試みの中に見られる分析的な部分は,我々の理性に先天的に宿っている概念を単に分析しただけで,それは本来の形而上学の目標ではなく,その準備に過ぎないからである。本来の形而上学とは先天的認識を総合によって拡大することだからである。
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といったような文章が数十,いや数百ページ続いていたらどうか。
 いや,これはどちらかといえば「読み終えるのに時間がかかる」ではなく,「ハナから開きもしない」本の例として提示されるべきかもしれなかった……。

 続いて,分厚い本,あるいは何巻にもわたる本,これに時間がかかるのは当たり前だ。

 ただ,意外と,分厚い本,とくに小説に限っていえば,読み始める際には確かに「はずみ」が必要だが,いったんその世界に突入したら最後,寝食を忘れて読み進み,あっという間に読了! というケースも少なくない。作者の側も長編となるとシチ面倒な理屈や修辞は後回しで,ぐいぐい登場人物を走らせ,語らせることが多いためである。

 したがって,分厚い本については,読み始める際の「はずみ」こそが重要である。
 ドストエスフキーの『カラマーゾフの兄弟』は,最初の数十ページがまことに面倒くさい。そこには登場人物の家系だとか関係だとかが綿密に紹介されているのだが,あとで考えてみれば別にそらんじておく必要もなければ,気が向いたときに立ち返ればよい程度のものでしかないのだが,なにしろ相手は世界の大文豪である,読み飛ばしてはいけない深い内容が込められているのかもしれないと正面から格闘して何度も何度も放り投げた記憶がある。そこさえ突破してしまえば,あとは一気呵成に数日で読めてしまったのだが(ちなみに,ドストエフスキーの作品の中で『罪と罰』が傑作とされるのは,その内容だけではなく,冒頭の入りやすさ,随所に見られる探偵小説的オカズなど,ともかく他の長編に比べて読者サービスに満ちていることがあるに違いない)。

 さて,没頭できたら小説は早い,ということの裏返しに,小説以外の書物は分厚いとともかく厳しい。ノンフィクション,ドキュメンタリーの類は小説的な演出を工夫したものが少なくないからまだよいのだが,やっかいなのはイメージの断章を延々と切り張って長編に仕立て上げたような作品である。たとえばロートレアモンの『マルドロールの歌』は,この二十数年にわたってときどきかじり読みはするのだが,どうしても通して読むことができない。こういった手合いはフランスの現代文学に多い。マンディアルグが好ましく思えるのは,その作品の多くがほどよい短編だからかもしれない。

 というわけで最近読了するのに時間のかかった本を紹介しようと思い立ったところで以下次回。

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