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2003/10/20

『ドスコイ警備保障』 室積 光 / アーティストハウス(角川書店)

Photo【この人,今すごくいいこと言ってる,と豪勇は思った。】

 で、その『都立水商!』の室積光の第二作がこれ。
 今回は、廃業後の力士の就職先として警備会社を作ろう,という話だ。

 警備会社そのものは最初のほうでわりあいあっけなくでき上がってしまって,あとはそこからのさまざまな展開。いや,会社ができてからも順風満帆というか,「ドスコイ警備保障(株)」は幾多のイベントを経て,すたすたとステータスを上げていく。ハリウッド映画もかくやのご都合主義の山である。
 しかし,この作者の作品は,多分,ストーリーが,とか,人物の描き方が,とか,そんな読み方をしてはいけない。

 いや,もちろん欠点があることを認めないわけではない。
 前作もその傾向があったが,本作では「主人公」がはっきりせず,状況を語る視点も明確ではない。これは,部分部分では笑わせられたり泣かされたりしつつも,一つのカタマリ,つまり小説として,なんとなく座りの悪い,物足りない印象につながっている。
 たとえば,木原敦子という非常に魅力的な人物が登場するのだが,主人公がはっきりしないため,彼女の魅力が主人公としての(つまり読み手の視点からの)魅力なのか,登場人物の誰かの視点からの信頼やあこがれの対象なのかがはっきりせず,結局敦子の魅力が浮かび上がらない。

 だが,非常によく出来た小説ができないことを,この作品がしてのけてくれることもまた事実だろう。それはつまり……いや,言葉にしてしまったらオシマイの,馬鹿馬鹿しいようなことなのだが。

 前作『都立水商!』でもそうだったが,細部を見れば,作者は渡る世間に苦い面があることは否定していない。世の中にはどうしても付き合いにくい人々がいること,その人々による悪意が不愉快な出来事を巻き起こすことも実は描き込まれている。
 だが,「主人公」と目される側の登場人物たちはすべて途方もなく好人物であり,多少の弱点欠点などものともせずに前向きに生きていこうという人々ばかりである。それがどんなに浪花節に聞こえようが,お涙頂戴と見えようが,作者は臆することなく彼らの歩みを讃えるのだ。
 だから,十分に,もしくは少しは幸せな方に,本書はオススメである。本書はあなたをさらに,よりハッピーにしてくれるだろう。しかし,あまり幸せでない方にまでそのマジックが通じるかというと,それは申し訳ないがよくわからない。

 それにしても,まさかとは思うが,作者には,世界がこのように見えているのだろうか? だとすると,それは実にうらやましいことだと思う。
 それとも,ある程度わかったうえで,余計なものをそぎ落とし,技術としてこのような世界を描いてみせているのだろうか。
 だとすると,それは……やはりそれなりにうらやましいことには違いない。

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