フォト
無料ブログはココログ

« 書評未満 『AV女優』『AV女優2 おんなのこ』 永沢光雄 / 文春文庫 | トップページ | 『ドスコイ警備保障』 室積 光 / アーティストハウス(角川書店) »

2003/10/15

『都立水商!』 室積 光 / 小学館

392【これが今では有名な,「水商ソープ科の手こすり千回」である。】

 タイトルの「水商」は「おみずしょう」と読む。

 帯の惹句をそのまま引用しよう。
「平成××年3月2日,東京都教育局は,水商売(風俗営業)に関する専門教育を行う都立高校を歌舞伎町に設立すると発表。正称『東京都立水商業高等学校』。同校は,ホステス科,ソープ科,ホスト科など七学科で発足する。またこの発表を行った3月2日を,東京都では『お水の日』に指定した。」

 大変なチカラワザである。
 上の惹句でおわかりのように,発想がすごい。その素っ頓狂な発想を,照れずに(←これがポイント!)まっつぐに押し切る,作者の朴訥さが切ない。猫も杓子もホラーもミステリも深刻ぶらないと評価されにくい時代に,ストレートなユーモア,正面切ってのお涙頂戴に徹した覚悟がエラい。

 一例だけ挙げる。

  毎朝生徒が登校してくると,担任が教室の前で待ち受けていて,
  厳しい服装チェックが始まる。
  「何だこの髪は? 染めてこんかア!」

 思えば,30年,40年ばかり昔,「中一時代」とか「高一コース」とかいった雑誌には,純然たるジャンルとして「青春ユーモア小説」なるものが掲載されていた。作品の中にギャグがあるのではない。全体として「ユーモア小説」としか言いようのない,呑気な登場人物,起伏のない展開,数段読んだ程度ではどこがオチなんだかわからないような,そんな漠々たる小説群。現在なら「いやし系」「なごみ系」とでも分類されるのだろうか。……いや,あのさじ加減はもう少しプロの技術者としてのワザによるものだったように思う。
 この『都立水商!』の魅力の1つは,その,懐かしい「青春ユーモア小説」に通ずる素朴さだ。ただ,職業小説家による手慣れた「青春ユーモア小説」とは違い,『都立水商!』はおそらく作者にとって,まっしぐらに目的地めざして投げ込んだボールではないか。

 だから,本書はさまざまな意味で教育論の素材たり得る。間違っても教育論そのものではない。その素材となり得る,のである。
 また,だから本書は随所に泣ける。ひねくれた読書家がナナメに構えても,ドッジボールが胸元に飛んでくるように登場人物たちの思いがぶつかってくる。

 後半の,スポーツ小説と化した部分については,賛否あるに違いない。面白くは読めるのだが,「水商」という発想をセンターラインとすると,どうしても外れてしまう面が否めない。

 そのほか,弱点,難点はいろいろあるかもしれない。
 当たり前である。
 本書は現代において作品として提供するのが最も困難な「純情」の花を描いた一大挑戦なのだ。
 「水商」の設立は無理として,どこぞの小粋な教育委員会が本書を「課題図書」に選んでくれないものか。

 なお,『都立水商!』は週刊ヤングサンデー誌上で猪熊しのぶのペンでマンガ化されているが,残念ながらヘタなマンガよりよほどマンガ的魅力にあふれた原作の特異性は表現しきれてないようだ。

« 書評未満 『AV女優』『AV女優2 おんなのこ』 永沢光雄 / 文春文庫 | トップページ | 『ドスコイ警備保障』 室積 光 / アーティストハウス(角川書店) »

小説・詩・文芸評論」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

« 書評未満 『AV女優』『AV女優2 おんなのこ』 永沢光雄 / 文春文庫 | トップページ | 『ドスコイ警備保障』 室積 光 / アーティストハウス(角川書店) »