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2003/07/07

アンリ・ミショー「安穏をもとめて」 ~あるコミック作品の前奏として~

Photo 「この世をうけいれない者は家を建てない。寒さを覚えずに風邪をひき,熱くもないのに熱がる」
 アンリ・ミショーの散文詩「安穏をもとめて」(思潮社『ミショー詩集』,小島俊明訳)はこのように始まる。

 「あんのんをもとめて」という何となく呑気で穏やか極まりない音感の題名とは裏腹に,そこで描かれるのは苛烈な男の生きざまだ。何が苛烈かといえば,その生きざまが,ことごとくずれているからである。彼は「まるで何もうち倒さないかのように,死刑執行人をうち倒す」,「渇きを覚えないのに彼は水を呑み,岩のなかへ平気で入っていく」。
 そして彼は「荷馬車にひかれて脚が折れても」「空気のない大暴風が彼のなかで吹き荒れ」ても,平和に思いをはせる。「地獄に堕ちて痛みもだえている平和,彼の平和,人びとがその平和以上だという平和に思いをはせる」のだ。

 ミショーが何を思ってこの作品を書いたのかは知らない。
 「彼」や「死刑執行人」「水」が何の暗喩(メタファー)であるのか,この「平和」がいかなる意味をもつ「平和」であるのか,まるでわからない。
 だが,この作品は心をうつ。正確にいえば,心をはがす,もしくは心をはぎ分ける。

 人間の衝動や,その衝動がもたらす行為,その結果。それらとはまるで別のところで,別の色合い,別の次元,別の音程で,常に願われ,常に描かれ,常に奏でられ続けられる希い。それが「安穏への思い」であるとするなら,ここで語られる「安穏」はただ一人の人間の生活における安逸などであるはずもない。単なる戦争と反対の状態としての平安などであるわけはないのだ。

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