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2003/06/09

バリ島版陰陽師 『踊る島の昼と夜』 深谷 陽 / エンターブレイン BEAM COMIX

40_2【「それほどの事態」だったってことだよ】

 舞台は(深谷得意の)インドネシア,バリ島。主人公は和風居酒屋“KAMAKURA”の日本人オーナー・ヨリトモ(通称)。日本人旅行者のよき相談相手である彼には,不思議な力を操る“裏の顔”があった……。

 つまり『踊る島の昼と夜』は,バリ島を舞台にした,バリ島ならではのオカルトホラー短編集である。
 ホラーといっても,角川ホラー文庫によくあるずちゃずちゃぬたぬた系ではないし,『新耳袋 現代百物語』のように日常生活の中にすっと異界が入り込んでくるといったタッチでもない。日本でいえば貴船神社の丑の刻参り,藁人形に五寸釘,あの「呪術」系の話である。かなり原始的で,それがバリという空間を舞台にしているため,一種独特なリアリティを持つわけである。

 たとえば,部屋に異変(ポルターガイスト)が続き,玄関を開けると表札代わりの名前のタイルに緑の蛇が囲むように置いてあった……。あるいは,島で出会った若者に,観光用でない祭りに連れていかれたあげく,「誰かにちゃんと祓ってもらわないと3日以内に死ぬぞ」と言われてしまう。ヨリトモはいかに彼女たちにかけられた呪術を暴き,敵を倒すのか……などと書くとまるで必殺なんとか人シリーズだが,ヨリトモにしても狙われた日本人女性を助けるのはあわよくば彼女たちとひとつよろしい関係になろうというシタゴコロ丸出し,決して道徳的な人物とは言いがたい。つまるところこれは,浮世離れした「神」と「魔」の島における,呪術を小道具とした大人のコメディなのである。

 ……と,毎度のごとくとりとめもなく終わるしかないのだが,本書では各短編にそっと登場する“サトミサン”が魅力的だ。
 白い服の“サトミサン”は午後の光の中,日傘をさしてどこかに歩いていくのだが,誰も話しかけることができない。本当の名前も,どこに住んでいるのかもわからない。声をかけようとしても,不思議と近づくことができないのである。「バリに想いを残して死んだ日本人OLの幽霊」なんて説さえある。……

 夜の呪術と昼の“サトミサン”。
 対するのがストイックな安倍晴明ならぬ和風居酒屋の女たらしオーナーであるあたりがほどよいサジ加減であろうか。

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