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2003/06/15

『ゴースト・ラプソディー』(全2巻) 山下和美 / 講談社漫画文庫

28【君は メロディーを 聴いたはずだ】

 「反体制」なんて言葉は今ではも死語というほどにも生き残っていないわけだが,それでも「権威」とされる何かについつい刃向かってしまう衝動というのはそこここに顕在する(問題は権威に刃向かうより弱いものを虐待する衝動のほうが生活やネットの上で数倍数十倍顕在していることなのだが……それはまた別の話)。

 山下和美は,とくにロックミュージシャンへの共感を描くことでそのあたりの攻撃性を追体感させてくれる稀有な作家の一人で……あったのだが,『天才柳沢教授の生活』という恰好の素材を得てブレークしてしまい,最近では次に何を描けばよいのかわからなくなったかのようにも見える。描きたいものがはっきりするまで描かないという選択肢もあるだろうに,出版社やアシスタント等とのしがらみもあるのだろうか,このところ迷走気味である。余計なお世話もいいところだろうが,何もしないのも創作行為の一環だと思うが……。

 さて,『ゴースト・ラプソディー』は山下和美の攻撃性がまだ明らかだった時代の好編だ。
 好みは分かれるだろうが,ここに描かれたジェットコースターのような,ロックミュージシャンの幽霊を含む四角関係の展開には,明らかに『柳沢教授』の連載の過程において作者が喪っていった,そして『不思議な少年』の読み切り掲載でも再構築できない何かがビビッドにほとばしっている。それは,主人公が,常に自分にとって必要な何かを追い求めている,その姿勢から出てくるものだ。それがピュアな恋愛感情であれ,一過性の快楽であれ,打算,欺瞞臭あふれる擬似恋愛であれ,かまやしない。求める高み,あるいはソリッドな手応えがあるということは,少なくとも作品世界では何にも増して主人公の言動を光らせるものなのだから。

 個人的には,主人公がライブのステージでミネラルウォーターか何かのボトルを投げ捨てる,そのボトルが宙に浮いたワンカットに最も魅かれる。描き手にそのつもりがあったか否かは知らないが,そのカットにみなぎる浮遊感と攻撃性は,この作品全体のテーマと(たまたま?)合致するもののように思われてならないからだ。

 要は,ここ十冊分ばかりの『柳沢教授』を読むくらいなら,そんなものあブックオフにでも投げ込んで山下和美の旧作を読んでみてはいかが,つーことである。
 『柳沢教授』については,あっさり終わってしまったつまらないテレビドラマに対しても言いたいことの一つ二つなくもないが,正直言ってほとんどテレビを見ない者には最近のテレビドラマは文法レベルで理解できないので……。

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