『テレビに出せない本当の怖い話』『テレビの中で起きた怖い話』 宗 優子 / 竹書房文庫
【男性の後ろ手に組んだ右手の人差し指を,小さな手がつかんでいる。】
前回取り上げた『東京伝説 うごめく街の怖い話』が存外によかったので,「むむ。竹書房文庫はしばらく詮議の外だった」と都内某大手書店で買ってきた2冊。しかし,こちらははずれだった。
なにしろまるで怖くないのである。
著者はいわゆる「霊能者」で,雑誌,テレビなどで活躍しているらしい。ここに掲載されている短い話も,実際にあった事件を一部仮名にしてストーリー化したものとのこと。つまりは,本書が「怖い」としたら,その根拠はそれが「本物」「事実」である,ということで……だが,読み手というものは贅沢なもので,よしんばその内容が本当に事実だったとしても,そう感じられなければそれまでである。まして活字にスレてしまって,本になった情報,テレビで放送された情報などしょせん大半はマガイモノなどと考えてしまう輩にはなにほどでもない。
つまりは,1枚の心霊写真があったとして,それが本当に心霊のしわざであるかどうかより,ヒヤっとさせられたり,ハラハラさせられたりするかどうかのほうが問題なのである。リアリティのないホンモノよりは,うまくだまされるならニセモノのほうが説得力が高い,ということだ。
ところが,本書に掲載されたストーリーたるや,著者が直接体験したものにせよ,知人の体験談にせよ,煎じ詰めればほとんど内容がない。
とある心霊スポットにテレビクルーが撮影に赴いた際のことを「放送できなかった恐怖映像」「山道のアクシデント」「廃屋の異常事態」などタイトルこそにぎにぎしく並べたてているが,参加者の誰それが夜道を怖がった,悲鳴を上げた,といったアオリを削っていくと「著者が浮遊霊を見た(と思った)」「ビデオ機器の調子が悪くなった」「歩いていたキャスターの足が痛くなった」程度の記述しか残らない。
掲載された心霊写真にしても,やたら「オーブ(霊魂の玉)が」と連発するが,夜間フラッシュを焚けば,埃や虫が丸い光の玉になって写るのは珍しくない。
そもそも,
「わたしは,少女の怨念だとか,ベッドに触ると死ぬだとかいったうわさはまったく信じません。」
と記したほんの数十ページあとに
「その人は,そのスタジオではなく,まったく別の場所で自殺したのですが,○番スタジオに未練か恨みのようなものを残していて,それで現れるのでしょう。」
などと書けてしまう神経も疑問だ。
……とかなんとかいうようなことを書いている最中に,霊能者の宜保愛子氏が6日に胃癌で亡くなっていたとの報が届いた。
宜保愛子氏については,彼女が活躍した時期あたりからほとんどテレビというものを見なくなったため,まったくというほど動く映像を見た記憶がない。本も読んでいない。雑誌などからの間接的な情報を得ただけだ。総じて今回取り上げた2冊と似た印象で,もしテレビをよく見ていても,興味の対象となったとは思えない。
最近はあまりテレビにも出ていなかったようだが,オウム事件以来,こういったオカルト系のタレントは不遇だったのだろうか,といったようなことも考える。
いずれにしても,そこらあたりにいる人間とよくできた怪談と,どちらがより怖いかは考えものだ。
うろついたり写真に現れたりする程度で,たいした悪さもしない浮遊霊などより恐ろしい人間はいくらでもいる。怖いかどうかは別にしても,白い服を着て車に渦巻きのシールを張れば電磁波を防げると言われてそれを信じてしまう人間が少なからずいることのほうがよほど薄気味悪いではないか。
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