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2003/05/04

『東京伝説 うごめく街の怖い話』 平山夢明 / 竹書房文庫

691【だめ…この首がいいから…】

 「ある意味」という慣用句は,じっくり考えてみるまでもなく,もともとたいした意味は持たない。
 「米政府の選択はある意味正しい」「人の命はある意味地球より重い」などという文言は,大袈裟な雰囲気を取り除くと,実のところ何も言ってないに等しいのである。
 とはいえ,これが便利な用法であることは確かで,たとえば次のような使い回しはどうだろう。

 平山夢明の『東京伝説 うごめく街の怖い話』は彼の得意な心霊モノではないが,ある意味心霊モノよりよほど恐ろしい……。

 平山夢明は『怖い本』などで知られる怪談コレクターにして小説家。
 木原浩勝・中山市朗の『新耳袋』と比べるとやや作った感,つまり作為的なエンターテインメント臭は否定できないが,市井から取材した体験談の素朴さ,得体の知れなさに,こなれた怪談の物語性がほどよくブレンドされている。そのくせ一話一話は引き締まって短く,展開に弛みがない。
 もっとも,弛みがないということは,「出るか,出るか……でっ,出た~っ!」といった演出には適さないわけで,稲川淳二の怪談と比べればその利用法(?)はまるで違う。女子大生をスタジオに集め,青いライトを揺らして悲鳴を上げさせるのには向いていないだろう。

 さて,新刊の文庫書き下ろし『東京伝説 うごめく街の怖い話』である。
 平山夢明には,類似タイトルの『東京伝説 呪われた街の怖い話』(ハルキ・ホラー文庫)という怪談集があるが,正統派(?)の心霊体験談であるそちらに対し,こちらは<幽霊のでない怖い話>をまとめたものである。著者の前書きから引用すれば,
 “エレベーターから降りたら,なかに残った男に髪を掴まれ引きこまれそうになった”
 “かつての同級生が滅茶苦茶な整形をし,誰なのかわからないようになってやってきた”
 “知らない人から何枚も犬の生皮を送りつけられる”
といった体験談話であり,要は<あちら側へ行ってしまった人たち>が日常生活の中にするりと入り込んできて,さりげなく,あるいは猛然と語り手たちに現実の被害を及ぼす物語である。
 「くるくる回転図書館」でも再三取り上げてきたストーカーたちがこれに含まれるだろうし,ここしばらくテレビのワイドショーを賑わしている白い集団,「パナウェーブ研究所」とやらの醸し出す気配もそれに通じるかもしれない。

 本書に掲載された恐怖譚にはいくつかのパターンが見られる。たとえば,アパートの大家の壊れた息子。相手を選ばない尖った殺意。あるいは,ちょっとした善意の行為が呼ぶ悲惨な結末(自殺幇助など)。都市の仕事の裏の真実……。
 宅配便のあるコースの担当者が,髪の毛が束になって抜け,次々と癌で死んでいくという話には,新たな都市伝説として定着しそうな気配がある。いや,新しい都市伝説を著者がたまたま拾ってきてしまったのか。

 いずれにしても,恐ろしさのわりには意外と実害の少ない心霊譚に比べ,本書で扱われている事件はその多くが関係者の人生を徹底的に破壊しかねないものである。そのいくつかは「まさか」で切り捨てられそうだが,もし事実であったとき,直接の被害者は「まさか」ではすまない思いをすることだろう。旅先のホテルで幽霊を見た,といった話との違いとして,その多くが現在進行形の事件であることも一段と恐怖を募る。

 それにしても……プロフィールに「生理的に嫌な話を書かせたら日本で三指に入る」と紹介される著者も著者である。三指の残りの二指が誰なのかも気になるところではあるが。

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