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2003/02/10

『短編復活』 集英社文庫 編

35【すごい有名じゃん。刀を千本集めてんだよね。】

 集英社「小説すばる」創刊15周年を記念し,157冊の中から選ばれた秀作短編小説のアンソロジーである。文字通りの短編集なので,こちらも短冊ふうに。

 以前,ある大手出版社の廊下を,当時飛ぶ鳥落とす勢いだったコミック誌の編集者と歩いていると,向こうからきた背広の数人が,さほど狭くもない通路で道を譲るかのようにわきに避け,顔を伏せた。
 今どき大名行列でもあるまいに「なんだいあれ」と尋ねると,利益の出ない文芸誌の編集者だという。どうして赤字の雑誌を廃刊にしてしまわないのかと問うと,総合出版社としての体裁のためだという。
 その言葉の真偽は知らない。単にそのコミック誌編集者と文芸誌編集者の個人的な折り合いの問題だったのかもしれない。それでも,文芸誌が産業として厳しいことは伺えた。

 本書に収録されているのは赤川次郎,浅田次郎,綾辻行人,伊集院静,北方謙三,椎名誠,篠田節子,志水辰夫,清水義範,高橋克彦,坂東真砂子,東野圭吾,宮部みゆき,群ようこ,山本文緒,唯川恵の16人の各作品。
 これで利益が上がらなかったら,文芸というジャンルが産業として成り立つまい,というレベルの作家群である。

 赤川次郎,相変わらず緻密とは言い難いが上手い。浅田次郎,並べてみると赤川次郎と音韻表記がこんなに似た名前だったとは。
 ……と,ここで気がついたのだが,全16作は,作家名の五十音順に掲載されているのだった。なんと無造作。いやむしろ,それぞれの作家の顔を立てようとした結果か。

 ならば逆に,この16作の選から惜しくも漏れた作家,作品は,誰,何だったのだろう。

 ユーモア,ペーソス,恋愛,ミステリ,ハードボイルドなど,さまざまなテイストの作品,それもさすがに高いクオリティのものがそろっている。
 ただ,綾辻行人「特別料理」は,小松左京に同じオチの短編があり,しかも小松作品のほうが格段にディープかつビターで,少々興醒め。
 椎名誠「猫舐祭」も,これより“らしい”作品はあったろうに,と思われないでもない。

 一方,清水義範「苦労判官大変記」は見事。もともとパスティーシュとかなんとかいいつつ,切り口もオチもヌルいことの多い作家だが,本作はとっかかりから最後の1行まで,パロディ歴史小説として実によくできた逸品。

 志水辰夫「プレーオフ」,ストーリーはひねった作りになっているが,登場人物の純朴さ,直裁さが少しばかり異様で,まるで中学生向けユーモア小説のよう。凝った短編の並ぶ中で,かえって最も奇妙な風味をかもし出しているように思われた。

 文庫の表紙は,小説すばる創刊号の表紙イラストの流用。1994年に急逝したペーター佐藤氏の手によるもの。このような強い視線,濃い眉毛に惹かれる。

 巻末の「著者紹介」のそのまた欄外に「特にことわりのないもの以外はすべて,単行本は集英社より刊行されました。現在すべての作品が集英社文庫でお読みいただけます。」との一節。
 こういう商魂は嫌いではない。ただし,「ことわりのないもの以外」では逆ではないか?

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