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2003/01/12

『あのこにもらった音楽』 勝田 文 / 白泉社 花とゆめCOMICS

Photo_2【俺には まだ ブラームスがいたからな】

 『のだめカンタービレ』の欠点としては,いや,欠点というのもおかしいのだが,少々読者に緊張を強いる点をあげることができる。この作品には,ギャグにしてもシリアスにしても,1ページで一気に針をマックスまで振り切ってしまうようなところがあって,主人公のだめがいたってノンシャランなキャラクターであるにもかかわらず,読み手は常に強い反応を強いられてしまうのである。

 しかし,峠をタイムアタックするのが車の楽しみなら,コンパクトワゴンで行くあてもなく旧道をのんべんだらるのもまたドライブの極意というもの。
 続いては同じ音楽を素材にしながら,およそ『のだめ』とは風味手応えの違う作品を取り上げてみよう。

 勝田文については,何一つ知らない。「文」は「あや」ではなく「ぶん」と読むらしい。
 『あのこにもらった音楽』は,新聞か雑誌の書評欄で取り上げられているのを見た記憶がある。その直後,書店で探すまでもなく目に入り,これも何かのご縁だろうと買い求めた。
 内容は,カバーの惹句によれば次のとおり。
「幼くして母と死別した梅子は,母の幼なじみの女将が営む梅木旅館で健やかに育ちます。旅館の一人息子・蔵之介は,かつて天才と謳われたピアニストでしたが…。ある日,18年音信不通のドイツ人の父が,梅子の前に現れて!? 和風・ほのぼの音楽旅館ストーリー。」

 ストーリーを明かしてしまえば,収録短編6作の最初の一編で梅子は蔵之介とあっさり結婚してしまう。『あのこにもらった音楽』は,梅子と蔵之介の恋愛アップダウンストーリーではないのである。
 では,ひなびた旅館を舞台にした人情話に終始するかといえば,その割には蔵之介の「元」天才ピアニストとしての扱いが大きく,かと思えばその他の登場人物があまりにも音楽に無頓着でもある。
 そのほか,作中の音楽についてはいろいろ言いたいことはあるし(一番納得いかないのは,日々の練習が軽んじられていること),旅館業務についてもリアリティの疑われる面が少なくない。

 ……などと,細かいことにチェックを入れるタチの方には本書はお奨めしない。「ほのぼの」と「のどか」にちょっとドタバタしたギャグをまぶして,三十分から小一時間ばかりまったりしたい方が手に取ればよろしいかと思う。

 それにしてもこの作者,現時点では,というより本質的に「アマチュア」なのではないかと思われてならない。
(「アマチュア」という言葉をとくに悪い意味で用いているつもりはない。ほめているわけでもないが。)

 絵柄がガタガタして安定しない,コマ割りがちまちまとうるさいといった「読みにくさ」について言っているのではない。少女マンガにおいては,たとえば手描き文字が散らされることによる「読みにくさ」は読み手のシンパシーを呼ぶ一種のアイキャッチ技法だし。また,そもそも勝田文より絵やコマ割りのヘタな「プロ」などいくらでもいる。
 勝田文にことさらアマチュア性を感じるのは,作品中の随所で作者が登場人物をどう動かしていいかわからず,途方にくれたように見える,そのためである。たとえば蔵之介に怪我をさせてピアニストの道をあきらめる原因となったフランス人ピアニスト,エマ・ベラについてなど,作者自身が最後の一編までどう描いてよいのかまるで決められなかったようにしか見えない。彼女は蔵之介をどうしたかったのか。どうありたかったのか。
 言ってみれば,人間の描き方におけるフォームが身についていないのだ。
 だから,エマ・ベラに限らず,梅子や蔵之介やその他の脇役にいたるまで,あらゆる登場人物たちはしょっちゅうどうふるまうかを決めかねたような表情やポーズをしている。稚拙と言えばケチをつけることになるが,そのどこか途方に暮れた描き方が読み手の緊張を解くと言えば言えなくもない。また,確信にいたらないまま描かれたため,存外に含みのあるよい表情になった,そんなコマが突発的に現れるのもアマチュア性が強いゆえのメリットである。

 逆にいえば,今後作品を描き続けて経験を踏み,プロとしてのフォームを身につけたとき,勝田文はそう面白い作家ではなくなってしまうだろう。少なくともこの『あのこにもらった音楽』のように,読み手を束の間浮世から解き放つ力は失われてしまうに違いない。
 それを乗り越えるには,また違う方向への「突破」が必要なのだ。大きなお世話だけど,多分。

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