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2002/10/25

幾何学的ナ薔薇ト死ト 『都心ノ病院ニテ幻覚ヲ見タルコト』 澁澤龍彦 / 学研M文庫

57 澁澤龍彦については1980年代前半に河出書房新社,中央公論社,福武書店などから立て続けに文庫が発行され,それまで単行本や全集本で読んでいたものもついつい手に取り,読み返したものだ。
(河出書房新社は,この20年の間に断続的に40冊もの澁澤の著作を文庫で発売し,その一方,90年代後半には1冊5000~8000円ほどもする大部の澁澤龍彦全集,澁澤龍彦翻訳全集を発刊している。奇特というか,欲がないとえばない,計画性がないといえばない会社である。)

 そうこうするうち,ここ数年は澁澤の本を手にしても,なんとなくぱらぱらとめくってめぼしい章題のところにだけ目を通し,そのうちにほかの本に目移りしてしまうということを繰り返すようになってしまった。
 読み手のこちらの変節に由来することはわかっている。最近はなかなかプリニウス,黒魔術,錬金術,シュルレアリスム等々といった澁澤的な世界に浸る気分にはなれなかったため,噛み砕いていえば,澁澤による「癒し」を必要とする余裕がなかったためである。ちっとも噛み砕いたことにはならないが。

 しかし,最後のエッセイ集とされる本書『都心ノ病院ニテ幻覚ヲ見タルコト』は,よかった。
 一篇一篇は新聞掲載のコラムであったり,書籍に寄せた解説であったりの短文なのだが,おそらく編集者にテーマを指定されて請われて書いたためだろう,かえって「自在」な面が強く浮き出た気がしてならない。
 下咽頭癌の入院記(闘病記ではない),幼年時代の懐古録,旅の思い出などを含むおそろしく雑多な短文の中では,澁澤らしいテーマ,らしくないテーマ,その作家や画家を知らないと何のことやらわけのわからないテキスト(これは彼の場合珍しいことではないが)などあれこれだが,全体を通してみればまことに肩の力の抜けた,まさに澁澤龍彦なのであった。
 そうしてその細やかなテキストに触れるうちに,メリメ,リラダン,クロソウスキー,それぞれ久しく手にしていない本の類をふと読んでみたいと思えてくる……。いや,それらを実際に読んでみて,それが今の己にしっくりくるとは実のところ思えないのだが,それでも「それらを読みたいと思わされた」ところでもうなにやら満たされた気分になってしまう。

 細部では,第一回,第二回の幻想文学新人賞の選評にある「夢みたいな雰囲気のものを書けば幻想になると信じこんでいるひとが多いようだ。もっと幾何学的精神を! と私はいいたい。明確な線や輪郭で,細部をくっきりと描かなければ幻想にはならないのだということを知ってほしい。」という一説には我が意を得たり,の気分であった。実際,恐ろしい夢,後に引く夢というのは,妙に細部がリアルではないか。

 また,雑誌の企画ものであろうが,澁澤龍彦の選ぶ「海外ミステリー愛読書ベスト10」,「澁澤龍彦が選ぶ私の大好きな10篇」(小説),「ポルノグラフィー BEST 10」などが掲載されているのもありがたい。未読のものを少しずつ注文していこうか,などとつらつら考えたりもする。
 もっとも,「ポルノグラフィー BEST 10」といってもそこは澁澤龍彦である。サド,ビアズレー,マンディアルグ,バタイユらが並んでいるのは,まぁ当然といってしまえば当然なのだが。

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