最近読んだ本 その一 『陰陽師 鳳凰の巻』『蘆屋家の崩壊』
例によって,取り上げるタイミングを逸してそのまま棚ざらしになってしまった本が少なくない。くだくだ余計なことを書き連ねるより,とりあえず駆け足で紹介しておこう。
『陰陽師 鳳凰の巻』 夢枕 獏 / 文春文庫
パッと咲いてパッと散った感のある陰陽師ブーム。少なくとも各社から新刊,文庫が相次ぐといった状況は沈静化しているようだ。
本書は今回の陰陽師ブームの火付け役,いわば元祖陰陽師マンジュウ,本家陰陽師センベイ,老舗陰陽師カリーライス(ええい,くどい!)のシリーズ久々の文庫化。
巻頭の「泰山府君祭」をぱらりと開く。ふむ。ほう。もう止まらない。さくさく,おっ今回はライバルの蘆屋道満が相手か。すたたた,むむむ。
……と,おなじみのシンプルな文体に見事引き込まれる。晴明と博雅の会話の妙も相変わらずだ。
「ゆこう」
「ゆこう」
そういうことになった。
全編,このテンポである。
逆にいえば全7編,ほとんど同じリズム,同じ展開なのは少々残念。1冊の作品集としてみると,類似品が7作並んでいる印象で,それはどうなのだろう。1作くらいは晴明がピンチに陥るとか,博雅が思いがけない活躍をしてのけるとか,もう少しそういう揺れがあってもよいように思われるのだが……。
岡野玲子のコミック単行本も10巻が出て以来久しく停滞したままで,なんとなくすっきりしない心持ちである。
『蘆屋家の崩壊』 津原泰水 / 集英社文庫
続けてこの本を紹介するのは実は若干問題があるのだが,それを推測できる方には同じことだし,よしとしよう(身勝手)。
無論,本書のタイトルはE.A.Poeの高名なうえにも高名な「アッシャー家の崩壊」のパロディである。それゆえ半可通のおふざけ短編集かと敬遠していたのだが,別のアンソロジーで同じ作者の「超鼠記」を読み,気になって手に取った次第。
内容は,「定職を持たない猿渡と小説家の伯爵は豆腐好きが縁で結びついたコンビ。伯爵の取材に運転手として同行する先々でなぜか遭遇する,身の毛もよだつ怪奇現象」。……いやはや,この「伯爵」だの「豆腐」だののなんとなく白っぽく粉を吹いた感じに,そのような書物であろうと敬遠したのはもったいないことだった。実のところ非常に濃密な怪奇短編集である。「ホラー」という言葉すらそぐわない,純文学寄りのねっとりした中にも芯のある文体,心理的にも生理的にもかなり粘着質な恐怖を招くストーリー。この,心理的にも生理的にも,というあたりがなかなかに得がたい。
世間では巻末の「水牛群」の評価が高いようだが,正直(クオリティはともかく)爾来純文学同人誌や新人の作品ではこの手の神経症的幻覚譚はそう珍しいものではない。そこで,ここではきっちり「埋葬虫」をお奨めしたい。現代ホラーでは「虫モノ」は1つジャンルを立てており,文字通り「よだった身の毛から虫が這い出る」ような佳作が少なくないのだが,その中でもおぞおぞとキモチワルイことこのうえなし。
なお,本書の「伯爵」は怪奇アンソロジストとして著名な井上雅彦がモデルだそうである。『スラムダンク』『バガボンド』の作者が井上雄彦,Yahoo! JAPANの社長が井上雅博。……だからなんだといわれても困るが。
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