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2002/08/05

読者体験怪談の文体について考える 『恐怖体験!呪われた写真』 心霊現象研究会=編 / 廣済堂文庫

Photo_3【「キャッ!」それに気がついた時,私は悲鳴を上げていました。】

 いわゆる「心霊写真」が「本物」かどうかという議論にはあまり興味がない。

 たとえば,かつて誰かが自殺した岩陰に人の顔が! ……確かに撮影してしまった者には剣呑だろうが,人の「顔」に対する認識力には若干偏りがあり,早い話黒い丸をぽぽぽんと3つ並べればそれが人の顔に見えてしまうのはご存知のとおり。岩や梢の複雑な陰影にはそうでなくとも人の顔に見えるケースが少なくないのだ。夏の雲がクジラの形に見えたからといって,それを日本人に捕食されたクジラの霊とは考えないのと同様である。
 
 思いがけないところに人の手が,画面を横切る光の帯が,など,そういった写真についても,そこに鏡やガラスはなかったか,とか,車のライトが横切らなかったか,とか,要するに心霊以外のあらゆる素因をすべて取り除いてからでないと検討したとはいえない。
 もちろん,心霊写真を提示する側は「そんなはずはない」と主張するのが通例だが,人の記憶ほどあてにはならないものはないのだ。

 そもそも,もし「心霊」なるものが本当にあって,それが死後にもなんらかの力を発揮できるのなら,なぜ人間についてだけ起こるのか。恨みや無念を抱いて死ぬのは人間に限ったことではないだろう。なぜ海は小魚たちの怨霊で満たされていないのか。なぜデパートの食品売り場は心霊写真のメッカとならないのか。

 ……つい力が入ってしまったが,本書『恐怖体験!呪われた写真』はそのような議論を持ち出すほどの本ですらない。大昔の少女雑誌や中学生向け雑誌の一角にいつも載っていたような,根拠も背景もいい加減な「読者体験談」のたぐいである。
 本書を手にしたのは,その日,少々重めの案件があって,まっとうな本を正面から読むつもりになれない,かといってスポーツ新聞や週刊コミック誌では時間をもてあましそう,そんな気分からだった。そんなときの本選びこそ,実は難しい。文字通りのよい本だと,気持ちが乗らなくて入り込めないし,もったいなさに却っていらいらしてしまう。さりとて過度に難しい本,まったくつまらない本では読む気になれず,時間つぶしにさえならない。

 そんな用途に心霊写真体験集は妥当なのかと言われればなんとも言えないが,まぁ適度な気分転換になったようなのであの日はあれで正解だったのだろう。もちろん期待を上回るような写真はない。

 ……が,一点,興味深く思ったことがあった。
 本書は取材先で得られたものや(どんな取材だ)読者から送られたという心霊写真とその体験談を2ダースほど並べたもので,したがって語り手はその心霊写真を撮影した当事者,ということになっている。当然,若い女性であったりある程度年配の男性であったり,その年齢や職業はまちまちだ。そして,写真の撮影された背景やその後の体験などが,本当の話なのか,それとも写真を素材に編集部側が勝手に書き起こした作り話かは不明だが,その文体が実に……ヘタなのである。
 いや,単にウマい,ヘタ,ということでなら,別に珍しくもないし,不思議でもない。こういったたぐいの読者体験文は,若手編集部員や売れないフリーライターが書かされるのが普通だし,また必ずしも美麗な文章を求められるわけでもないからである。
 ただ,それにしても,ヘタなのだ。男女の描き分けが。
 たとえば,

「リゾートマンションは三LDKで,ダイニングが十二畳ほどもある。その広さが良かったのだが,その時はそんな場所に二人だけでいることが心もとなく感じられた。さきほど見た人物が,まだどこかにいるような気がして仕方がなかった。」

「この写真を見れば,あの時の楽しい気分を思い出して,態度を少しは和らげてくれるかもしれない。そう思ったからです。
 正直いって,私は里香のことがとても好きでしたから,なんとかして,関係を修復したかったのです。」

 である調,ですます調以外,とくに年齢や性別を明らかにするための素材はなさそうだ。実は前者の語り手は若い女性,後者は中年の男性である。しかし,この引用部に限らず,およそそのようには読めない。それぞれで話題にされる写真は,男女が泊り込みの旅行に出かけてその先で撮影した,そういう背景にもかかわらず。
 そういうプライベートな,なおかつ男女の関係が透けて見えることを描いた場合,文章がウマかろうがヘタだろうが,通常はもう少し年齢や性別が見えてくるものである(もちろん,手馴れたプロならば,書き手の設定を文体から匂わすくらい可能だろうが)。プライベートな,それも色恋にかかわる内容で,これだけ何も見せないということのほうがむしろ難しいかもしれない。

 つまり,本書のライターは,男とも女とも,また年齢もよくわからない,そんな文体を1冊通して書き続けるという,逆の意味で特殊な能力を持っているということになる。
 どうも,選ばれている言葉やシチュエーションに対する反応(妙に古風に律儀なのである)などから,まぁまぁ年配,手広く仕事を請け負ってはきたが今ひとつ名のあがらないフリーライターもしくは出版プロダクション社員,あたりとみるが,どうだろうか。

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