朽ち果てて,風化して 『廃墟霊の記憶』 板橋雅弘 文,岩切 等 写真 / 角川ホラー文庫
【深夜,ここでセックスをするなんて,ただの肝試しだ。】
「廃墟という趣味」について初めて知ったのはスポーツライター山際淳司の記事によって,だったかと思う。アメリカでは,休日にゴーストタウンを訪ねる趣味があり,写真を撮ったり廃屋に残された生活用品類を手に取ったり,確かそのような内容だった。
その後も長崎の軍艦島をはじめとする廃墟の写真集が地道に売れているらしい,とか,廃墟を舞台にした映画が廃屋で上映されてマニアが集まったとか,静かにブームは続いているようだ。
『廃墟霊の記憶』は,雑誌「SPY」に連載されたフォトエッセイが1992年マガジンハウスから『失楽園物語』として単行本化,さらに今年になって文庫化されたものである。
廃墟めぐりの趣味はないし,本物・見世物を問わずお化け屋敷を訪ねたいとも思わない。それでも,廃屋に前にするときの,あのなんとも言えない思いはわかるような気がする。
埼玉県K市に住んでいたころ,家人の運転で郊外に車をめぐらせると,工事途中でバブルが崩壊してそのままとなった巨大なマンションの棟があり,夕暮れから夜にかけて,そこを通りかかるたびに少し怖さのまじった暗い気持ちになったものだ。人が住み始める前であの気配である。このマンションはその数年後,体裁を整えて売りに出されたが,あの数百の窓に人が住み,そののちに廃屋と化したなら,何か出ないほうがおかしい。
『廃墟霊の記憶』は全体的には意外とキワモノではなく,文章的にも落ち着いて読めるものだった。過分なアオリもなく,むしろ淡々と閉館された映画館,金の採掘場後,30年以上運行されてないモノレールなどを訪ね,紹介する文章は好感が持てる。
ただ,「幽霊ホテル」として有名な琵琶湖湖畔の木の岡レイクサイドホテル(表紙写真),スペシャル級の「お化け屋敷」相模外科病院跡などをまじえたため,「ひとが勝手につくり,勝手に捨ててしまった物件たちに,かつての賑わいの残り香を嗅ごうと思って」という当初のルポの目的が曖昧になってしまったようにも思われる。
要するに「廃墟めぐり」に「お化け屋敷めぐり」が必要以上にまざってしまったわけである。読み手にしてみると,住宅展示場と化した大阪球場やブームの終焉した幸福駅などの章に焦点が合わせにくいのだ。
念のために言っておけば,本書は角川ホラー文庫にありながら,ホラーの要素はほとんどない。幽霊が出ると有名な現場に赴いても,どのようないわくつきの幽霊がどのように出るか,という話はほとんど触れられていない。
だから怖い,という面もなきにしもあらずだが……。
ところで,「SPY」連載時に編集者として付き合ったのはどうやら西原理恵子との親交でも知られる(正確にはサイバラとの付き合い以外ではよく知らない)新保信長らしい。いや,そもそも,著者の板橋雅弘という名前に覚えがあるので誰だろうと思ったら……少年マガジンに長年連載されたあのほのぼのラブラブコミック「BOYS BE…」の原作者だった。なるほどねえ。
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