ジョン・レノン『ヌートピア宣言』などについての断章
音楽の好みなんて人それぞれで,そもそも当人にだって説明つきゃしない。
ジャーニーが嫌いでトトがつまらなくてELOがかったるくて,そのくせなんでボストンが好きなんだ俺は。ピーガブ時代はもちろん,フィル・コリンズになってからもお気に入りだったジェネシスが,『デューク』『アバカブ』以降,まるで3日間テーブルにさらしたままのカステラみたいな味になってしまうのはいったいどういうわけだ。
世間の評価もどこかそういうところがあって,同じ大物ミュージシャンで,同じように人気を博したはずのアルバムが,今となってはまるで歴史から埋もれてしまった,そんなこともある。
たとえば,デヴィッド・ボウイの『ステイション・トゥ・ステイション』。
次の作品があの傑作『ロウ』だったアオリをくらったのか,当人からも「なかったこと」みたいな扱いを受け,CD化に時間のかかったボウイ作品の中でも発売されたのはずいぶんと後回しだったように記憶している。まぁ,グラムの帝王がディスコに走ったとか,アメリカにひよったとか言われた前作『ヤング・アメリカン』とこの『ステイション・トゥ・ステイション』,忘れたい気持ちもわからないでもない。ゲルマン人がこさえたゴジラのサントラみたいな『ロウ』に比べれば確かに上滑りした感は否めないし。それでもたとえば「野生の息吹き」など,なかなか捨てがたいと思うのだが……。
ジョン・レノンでいえば,『ヌートピア宣言』。
あの『イマジン』の次のアルバムが,20年後の今これだけ忘れられ,見捨てられるとは。
そりゃ確かに,冒頭の「マインド・ゲームス」にせよ,6秒間の無音にすぎない「ヌートピアン・インタナショナル・アンセム(ヌートピア国際賛歌)」にせよ,ご大層なタイトルのわりに思いの高みは「イマジン」や「ハウ」「神」に遠く及ばない。『ジョンの魂』当時の野太い丸太がごんごん激流を下るような率直さパワーもなく,「ワン・デイ」は「ラヴ」や「オー・マイ・ラヴ」の透過性に欠け,ヨーコを歌った「あいすません」は「母(マザー)」や「母の死」のようにソリッドな個人の経験に裏打ちされた切実さを感じさせず……うーむ,こうして1曲1曲を比較してみると,そりゃ確かに『ジョンの魂』や『イマジン』より評価が劣るのはやむを得ないという気もしないでもない。だが,それにしてもこれほど軽んじられるほどのことはないのではないか。
説得力がイマイチなぶん,1つ1つの曲相はポップで,馴染みやすい。大傑作とは言いがたくとも,心地よい佳曲が並んでいるとでもいおうか。「アウト・ザ・ブルー」は少しゆがんだラブソングとしてときどき口をついて出るし,「ミート・シティ」はジョン・レノン,いやビートルズのメンバーとしては珍しいほどのバリバリしたハードロックだ。
というわけで,『ヌートピア宣言』は,レッド・ツェッペリンの『フィジカル・グラフィティ』である,とか言ってみたいわけだが,どうか。どうかって言われても困るだろうけど。
ほかにも,たとえばミッシェル・ポルナレフ『星空のステージ』。
「愛の伝説」をフューチャーした『ポルナレフ革命』を最後の花火として,なんとなくフレンチポップスブームが完結してしまい,当人も巻き返しのつもりかどうかアメリカに移ってごそごそやってた時期のアルバムで,「青春の傷あと」がシングルとしてはそこそこヒットしたものの(馬場のスカイコンパのジュークに入っていたなあ),もはや「ラース家の舞踏会」「愛のコレクション」「ロミオとジュリエットのように」などに象徴される「あの」おフランチ,大袈裟,華麗・美麗なポルナレフのイメージはここにはない。でも,今聞いてもそれなりに耳を楽しませてくれるのはさすがだ。「青春の傷あと」は今聞くとこれはもう演歌としかいいようがないのだが,「失われたロマンス」「愛の旅人」「雨の日のラヴソング」などのメロディは,地味ながら噛めば噛むほど味が出る。いや,実際,1曲1曲,タイニーながらなかなかよく出来ているのだ。
大ヒットとはいえなかったこのアルバムにしてこのメロディメイク。逆にポルナレフの天才を見るような気がしないでもない。
10ccでは,後期の『ミステリー・ホテル』だ。
当時の『ルック!ヒア!!』,『都市探検』,『ミステリー・ホテル』,発表順もよく思い出せないこれらの作品群はファンからの評価も低く,いずれも今では国内はもちろん海外のCD通販サイトですら入手できない。ゴドレイ&クレイムがいた初期の知的でビターなアルバム(個人的には2作めの『シート・ミュージック』が一番お気に入りだ),後期のエリック・スチュワート&グラハム・グールドマンによるちょっとシニカルだけどメロディそのものは伸びやかなラヴソングス,そういった彼らの魅力がどんどん失われ,才能が涸れに涸れた時代の作品,ということになっているのだが,どういうわけか『ミステリー・ホテル』だけは妙に心に馴染む。最後の「サバイバー」なんて,10cc全曲の中でもベスト5には入れたいお気に入りだ。10ccというお祭りそのものの終焉を歌うような,というとご大層に過ぎるか。
10ccが男性のアレの1回分を指すというのは当時ロック雑誌などで繰り返し語られたことだが,その10ccの最後のひと絞り,というかね。
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