ニュー・オーダーについての断章
New Orderの新譜‘Get Ready’,もちろん昨夏に発売されたアルバムを今さら「新譜」でもないのだけれど,前作の‘Republic’が8年前で,90年代のオリジナルアルバムがその1枚だけだったことを思えば,半年やそこらは誤差に過ぎない。
その,‘Get Ready’は予想されたようなものではあったが,期待したようなものではなかった。
無人島に追いやられる際に,持っていくことを許されるなら‘Power, Corruption and Lies’や‘Low Life’のほうがよい。間違っても‘Get Ready’ではないだろう。
‘Get Ready’の出来が悪い,というわけではない。ギターをフューチャーした音には厚みがあり,メロディは相変わらずセンチメンタルで,文句をつけるようなものではない。Bernard SumnerとJohnny Marrによる趣味のユニットElectronicの‘Twisted Tenderness’と似たような音で新鮮味が足りなかった,ということもあるだろう,だがそれだけでもない。
New Orderは,その前身だったJoy DivisionのリーダーにしてヴォーカルのIan Curtisが2ndアルバム‘Closer’完成直前に首吊り自殺してしまい,途方に暮れた残されたメンバーたちがBlue Mondayの世界的ヒットによって……。
と,この粗筋だけだとウェットな成功譚になってしまうのだが,当時の彼らの,メンバーの写真も歌詞も提供しないアルバム,愛想のないライブ,といったぎしぎしした無造作さが懐かしい。あれは,本当に心地よいものだった。世にもヘタクソなギター,ヘタクソなヴォーカルが,昇って,降りて,昇って,降りて。
Leave me alone, leave me alone
苔むした廃墟,ではない。見渡す限りの,空虚。
彼らの音はかつてもっとずっと痩せていたが,それだけ豊かだった。
その音は完成にはほど遠く,だからずっと深いところまで揺れるのだった。
かつて,ミュージシャンが恋だの夢だのを提供して,リスナーがそれをまっすぐに受け取るということがあり得そうに見える時代があった。
New Orderはそんな甘やかなカタチには頓着しない。無造作,不親切,投げ遣り。
IanのことはIanにしかわからない。New OrderのことはNew Orderにしかわからない。
外からはだからただ迷路にしか見えない。
だが,あらゆる迷路のランダムな組み合わせを試すうちに,ごくまれに,いくつかのステップがまっすぐにリスナーに届く,そういうことはある。
そういうことはあるのだ。
Ian Curtisが自殺したとき,彼は僕とほぼ同年だった。
Ian Curtisがもし生きていたら,彼は僕とほぼ同年ということになる。
僕は彼を追い越せない。彼は僕を追い越せない。
僕はIanではないのでIanのように歌うことはできない。BernardではないのでBernardのように歌うことはできない。
だが,彼らが得られなかったものを,同じように手にしないことはできる。
それはとてもつまらないものだ。だが,つまらないものの中に本当の答えはあるものだ。
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