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2001/12/17

粘土造りの少女マンガ 『あなたがほしい je te veux』 安達千夏 / 集英社文庫

20【端的に言えば,彼女をこの腕に抱きたいということだった】

 『妊娠小説』,『紅一点論』の斎藤美奈子の書評集『読者は踊る』(文春文庫)には「休刊した文芸誌『海燕』(ベネッセコーポレーション)は購読者と新人賞の応募者がほぼ同数だったらしい」という一節がある。
 要するにマンガ家やミュージシャンになる才能がないオチコボレに対して,文章,それも技や知識の蓄積がいる本格エンタテインメント,取材が不可欠なノンフィクション,多少は勉強が必要なシナリオなどでなくて,身辺雑記的なエッセイや純文学が救済機関として機能している,というのである。
 いやはや,なんというわかりやすさ。

 では,その「海燕」休刊後,オチコボレ諸氏にはどの新人賞がオススメかという問題だが,難易度を別にすれば,集英社の「すばる」などいかがだろうか。
 その手の新人賞の多くと同様,痩せぎすで生理の遅れがちな20代の女性をモチーフに,頭でっかちなセックス描写をちりばめ,エキセントリックな言動の1つ2つさせてみせる,このあたりが基本だとは思うのだが,「すばる」の場合,ときどきSF的な踏み外しをも容認することや,さすが天下の集英社がバックにつくだけあってたまに映画化されるあたりも魅力だ(本気にしないように。カラスは「すばる文学賞」と「小説すばる新人賞」が別のモノだということを知らなかったくらいその方面にはうといのだ……えっ? そもそも「すばる」と「小説すばる」って別の雑誌なの?)。

 さて,第22回すばる文学賞受賞作,安達千夏『あなたがほしい je te veux』は,まったく基本に忠実な新人賞向け作品である。
 背表紙の惹句から引用すると「年下の友人・留美に対する同性愛の欲望を意識しながらも,中年の建築家・小田との官能と友愛に充ちた関係に癒しと安らぎをおぼえるヒロイン・カナ」。高校野球地区大会準々決勝敗退チームのピッチャーのオーバースローを見るような心持ちとでもいおうか。

 近い世代の女性ということもあるためか,先に取り上げた『コンセント』と類似した面も多々目につく。
 主人公の女性からみて恋愛対象とはいえない相手とのセックスが再三描かれること。
 それも含めて全体に「悪い子でしょあたしって」な気配が漂うこと。
 職業的なリアルな話(本作の主人公はモデルハウスに勤める不動産の営業)が小説としての読み応えを支えること。
 主人公が職場では有能とまではいかないまでも少なくとも無能ではないように描かれていること。
 主人公が周囲からユキ,カナと,なぜかカタカナ2文字で呼ばれること。
 主人公の昔の学友(既婚)の女性が登場し,軽んじられつつもそれなりにストーリーを動かすこと。
 主人公の特異性は結局のところ育った家庭,その家族のあり方にかなりの部分が求められること。

 これらの共通項がこの2作にだけのものなのか,当節の女流作家の作品に共通するものなのかはわからない。もちろん,『コンセント』と異なる点も少なくない。
 たとえば『あなたがほしい』では,『コンセント』に多用された擬音語,擬態語が極端に少ない。きちんと調べたわけではないが(実際,「ふかふかのカーペット」とか「ニヤリと笑った」とか,あるにはあるのだが)175ページまで読み進んだところで,
   庄内浜で水揚げされた寒鱈が,くつくつと煮え立つ。
という表現の「らしくなさ」にびっくりしたくらい,非常に少ない。
 たとえばセックス行為も
   (乳首の)隣で唇がさまよう。中心で疼いているものにだけは触れず,意地悪くその周りに舌で円を描く。背筋にむず痒さが溜まっていく。
といった具合にあくまで「言葉」重視で表現が積み重ねられていく。もっとも,いくらセックス描写の比率が高かろうが,
   局所的で明快な快感が立ち上がる。表面に近い筋肉が,絞られるように緊張していく。充血し肥厚した感覚に,細い異物がめり込んでくる。
ではポルノグラフィーとしては落第だ。

 もう1つ,家族や周囲から翻弄され,一方で自らの内なるものに翻弄されつつも,最後には翻弄する側に回ろうと宣言する『コンセント』に比べ,本作の主人公は最後まで相手の構えや反応によりかかるばかりだ。主人公が愛慕する留美という女性の描かれ方も中途半端で,いっそ一切描写がないほうが想像力をかきたてられてよかったかもしれない,などとも思う。
 結局,出来の悪い少女マンガを読んだような気分しか残らなかったが,作者はともかく,「すばる」はこれを選ぶことで何をしようとしたのだろうか。

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