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2001/12/16

ぐりぐりと《精神世界》に抜いたり差したり 『コンセント』 田口ランディ / 幻冬舎文庫

87【もうすでに腐りかけています。人間の形をしていませんよ】

 ベストセラーを読むのは難しい。たいていつまらないからだ。旬の勢いと話題性を剥ぎ取ったら読むに値しないものが大半ではないか。夕刊紙でもめくったほうがよほど血行によい。さりとて,放っておくとたまに本当に自分にフィットする本との出会いを逃してしまうことにもなりかねない。このへんが悩ましい。絶版の足の早い最近では,本との出会いは文字通り一期一会なのである。

 『コンセント』は昨年のベストセラーの1つであり,文庫化されたらぜひ読んでみようと思っていた作品である。漏れ聞こえてくる作者の言動からは,およそ興趣も魅力も感じない,しかし,「二カ月ほど前から行方不明になっていた兄が真夏の暑い日に衰弱死し,アパートのPタイルの上で腐り果てて発見された」という展開はひょっとしたらクリティカルヒットという期待を抱かせないわけでもない……。

 と,一気に読んでみた印象だが,これがある種の読者を駆り立てる理由はなんとなくわかるが,あいにくそれに没頭できる年齢は過ぎてしまった,といったところか。たとえば大学生になったら高野悦子『二十歳の原点』はもうとても読み返せなかった,そんな具合。

 物語に通底する《精神世界》については,なんといえばよいのだろう,「しかたないなぁ」とでも言うか。《 》でくくったのは雑誌「ムー」の延長にしか見えなかったためであり,その方面にはとくに関心がない。よろしくない,というのではない。こういった世界観やオカルトはまやかしのように見えるが,愛だの正義だの市場だのだってまやかしといえばまやかしだ。オカルトに立脚したホラーやミステリが許せて,純文学や青春小説が許せない理屈はない。
 ただ,最近はこういう,一日中自分のことばかり考えている主人公に付き合うのが面倒なのだ。要するに,「世界がいかにあるかが神秘なのではない。世界があるという,その事実が神秘なのだ」というのはウィトゲンシュタインの言葉だが,なんというか,「いかに」のところで「わあわあ,あたしって,あたしって」と騒いでいるような感じがしないでもない,そんな煩わしさとでもいうか。

 などと書くと,ひどく見下した印象を与えかねないとは思うが,本としては予想よりもずっと楽しめた。なによりミステリっぽい展開の読めなさがあるし,言葉を結晶化し,着床させるのが詩だとするなら,こういった,自分に棒を(あるいは自分自身が棒として)突っ込み,かき混ぜるような方法論も主題によってはナイスだよな,という面だってある。

 ただ,どうしても点数が辛めになってしまうのは,死臭,ビジネスライクな葬儀屋,死体が放置された部屋を清掃する専門の消毒清掃会社,そしてコンセントなどなどといった小道具の巧さに比べ,言葉遣いのレベルがあまりに凡庸に過ぎるためだ。
 一番気になるのが,擬音語,擬態語の多用である。無造作に拾ってみよう,最初のページだけでも
   喉の粘膜がひりひりして
   ウィーンというかすかなモーター音とともに,パソコンが
   カチャカチャとせわしなくハードディスクが
といった具合。
   駅に向かって歩き出すと下半身がすうすうする
   ざあざあいう水音がだんだん頭の中いっぱいに
   床がぐにゃりとやわらかくなって
   こめかみがズキズキと痛んだ
   熱い精液が膣からどくどくと溢れ出してくる
など,多用することの是非はともかく,一つ一つにあまりに芸がない。喉はひりひり,水はざあざあ,精液はどくどく。類型的というかステロタイプというか,小学生の作文じゃないんだから。
 男に肛門をいじられながらペニスにまたがる場面での
   かき回されるぐりぐりが好きなのだ
にいたっては笑うしかなかった。別の場面では
   ぐりぐりと腰を回しただけで男は慌ててペニスを引き抜いて射精していた
などというのもある。

 問題は,本作の世界における嫌悪も混乱も癒しも,その程度のステロタイプな次元のことかもしれないことなのだが。

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