[雑感] 中島みゆき「船を出すのなら九月」
中島みゆきの7枚めのアルバム『生きていてもいいですか』は1980年4月5日発売,
うらみ・ます
泣きたい夜に
キツネ狩りの歌
蕎麦屋
船を出すのなら九月
(インストゥルメンタル)
エレーン
異国
とい内容で,黒ベタにアルバム名だけのジャケットや,冒頭の「うらみ・ます」の印象のあまりの暗さゆえか,その前後のアルバムの中でも最も重苦しい印象が強い。彼女の(一見明るい)曲に見え隠れする,切なさや悲惨さを外から笑い飛ばそうとするようなメロディ,フレーズにも乏しい。
その中で,「船を出すのなら九月」はタイトルからして見事な,稀代の佳曲ではあるのだが,残念なことに主旋律が往年の名曲と瓜二つだ。盗作かどうかは別として,どう聞いてもまったく同じなのである。
その曲とは「小さな木の実」,1971年にNHKみんなのうたで取り上げられたもので,海野洋司作詞・ビゼー作曲(「美しいパースの娘」から)。
歌ったのは「詩人が死んだとき」「こわれそうな微笑」の大庭照子,映像は草原の実写に赤や茶色の紅葉をあしらったカットの組み合わせだったように記憶している。ビゼーの原曲をはなれ,秋の木の実,つまり父親の死と少年の成長をうたった,心に染みる美しい曲である(のちに,ほかの歌い手によって何度かリメイクされているし,みんなのうた名曲集といったたぐいの楽譜やアルバムにもよく収録されているようなので気になる方,興味のある方はどうぞ。
もちろん,ジョルジュ・ビゼー(1838-1875)の作曲したメロディについてはすでに著作権は切れており,最近DA PUMPが同じくビゼーの「アルルの女」を利用したのと同様,今さら責められる筋合いはない。だが,80年当時すでに大ヒットメーカーだった(桜田淳子らが歌ったヒット曲を自分で歌い直した『おかえりなさい』が『生きていてもいいですか』の前年)中島みゆきが,わざわざ盗作,パクリと指摘されるような危ない橋を渡るわけもない。
おそらく,たまたまNHKみんなのうたを小耳にしたものが意識の奥底に潜り,それが「船を出すのなら九月」という歌詞のフィルターを通して噴き出てきた,といったところではないか。
ここではこれが盗作であるかどうかを問いたいわけではない。
「小さな木の実」も,「船を出すのなら九月」も,ナイーブなナイフが胸を刺す佳曲であることにはかわりはないのである(要するに,ビゼーがすごい,ということかもしれない。このビゼーが生前はほとんど評価されず,無理解な妻のために作品が散逸しかかったとは信じがたい)。
そして,ここで本当に書きたかったことといえば……。
だが,もう九月は過ぎてしまった。
今はただ茫洋と船の上から過ぎ去った夏を振り返るばかり。
ただ舳先を打つ波の音にあてどない旅を思うばかり。
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