フォト
無料ブログはココログ

« [回顧] ホームランバッターについて | トップページ | 独身者の機械 そのニ 『少女アリス』 沢渡 朔 / 河出書房新社 »

2001/09/09

独身者の機械 その一 『謎の怪奇現象を追う 科学を超えた世にも不思議な事件ファイル』 北岡 敬 / 河出書房新社 KAWADE夢文庫

211【ロリコンヌードとコスプレの大先輩の話】

 赤坂の小さな書店の地下に向かう階段には,この夏ささやかなホラー文庫コーナーが設けられた。心霊体験,霊の世界,呪いと怪奇……聞いたことのないライターが書き散らしたような,稲川本が権威に見えるような,いかにものB級本ばかりだ。
 夏の初めからずっと気になっていた1冊があった。
 新刊というわけでもない,本の作り,タイトルからしていかにもチープで,ぱらぱら開いた限りでもとくに必要とは思えない気配だった……が,7月,8月,そして9月とその書店に足を向けるたびにその本は存在を主張し,手に取って,レジに運んで,と購入をせがむのだった。

 その誘惑に抗しがたく,結局購入してしまったのだが,電車の片道で読み終えてしまいそうなその内容は他愛ないと指摘するも虚しい,根拠の怪しい伝聞情報ばかりだ。3冊挙げられた参考資料の1冊がリーダーズダイジェスト社の『世界不思議物語』というだけでご想像いただけるのではないか。
 たとえば,こんな具合。
・1950年10月,ロンドンのディスコで突然19歳の女性が炎を噴き出して燃え上がった
・北大西洋,激しい嵐が吹き荒れる中,定期客船シティ・オブ・リマリック号の乗客のもとに自宅にいるはずの妻が訪れた(年代不明)
・アボリジニーの間では,死の歌を歌いながら人間かカンガルーの骨を敵に向けて指すと,見えない矢で人を殺すことができると伝えられている
・1889年,万国博覧会に沸くパリで,病気で倒れた母親の薬を取りに病院に向かった娘が戻ってみると母親の姿はなく,ホテルの支配人も医者もそんな女性は最初からいなかったと言った
・1945年,チャールズ・ウォルトンという老人が熊手で首を刺されて殺されたが,これはおそらくイギリスで行われた最後の魔術の儀式による犠牲と思われた
などといった2,3ページの記載が全79話。オーストリア皇太子が暗殺時に乗っていた呪われたオープンカー,ケネディ暗殺の予言など,有名な史実にかかわる話もある。いずれも怖くもなんともない,眉唾もいいところで,たとえば1845年,ロシアのリボニアで女教師が同時に二箇所に存在したという話で,その証人は「決して嘘を言ったりすることはない」「しごくまじめな生徒たち」なのだが,その女教師の名前も不詳,「マダム・ザーゲ」と呼ばれていたが結婚していたのかどうかもわからない。従兄妹の友達にでも聞いたのか?

 話を戻そう。
 では,なぜそんな本が気になったのか。
 表紙の怪しい少女の顔の由来を知っていたからだ。

 この本のどこにも表紙の少女について触れていないが(カバーイラスト担当者がどこかからコピーしてきて黙って使ったのだろう),この写真の少女の名はモード・コンスタンス・マルベリー。
 元の全身像写真の中で彼女は幼い胸をさらし,裸足の両足をこちらに投げ出している。インターネット上で公開したら少々物議をかもしそうな幼女ヌード写真だ。
 撮影者は幼い少女たちを愛し,ともにピクニックに出かけ,手紙を書き,詩を送り,少女が大人に近づくと決然と別れを告げる。
 彼が撮影した少女たちの写真は多数残っているが,それらの写真の中で少女たちのある者は憂いをふくんだ目で遠くを見やり,ある者は赤頭巾や中国娘や「聖ジョージと竜」に扮し,ある者は裸体をさらして撮影者をじっと見つめている。

 撮影者は牧師の家に生まれオクスフォードに数学を教え,家中に温度計を吊るして均一な温度が保たれるように暖炉の火を調節した。
 その撮影者の名はチャールズ・ラトウィジ・ドジソン,またの名をルイス・キャロル。

« [回顧] ホームランバッターについて | トップページ | 独身者の機械 そのニ 『少女アリス』 沢渡 朔 / 河出書房新社 »

ホラー・怪奇・ファンタジー」カテゴリの記事

小説・詩・文芸評論」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

« [回顧] ホームランバッターについて | トップページ | 独身者の機械 そのニ 『少女アリス』 沢渡 朔 / 河出書房新社 »