インテリ農民の陵辱的ヰタ・セクスアリス? 『赤目のジャック』 佐藤賢一 / 集英社文庫
【ひひ,まずは奥方さまを優先して】
相次ぐリストラに倒産,雇用不安の高まる昨今だが,そんな中でもなり手が少なくて求められている職業がある。その1つが時代小説家だ。
池波,司馬遼といった大物が去り,残るおばさまがたもこの暑さではいつ風太郎に続いて,コホン,いや失礼。ともかく力のある時代小説家の登場が強く望まれ続けてきたにもかかわらずなかなか現れない最大の理由は,創作にともなう時代考証の面倒くささだろう。しかも時代小説の熱心な読み手は歴史や風俗にうるさ,ゴホゴホゴホ,いやつまり,文芸の徒たるもの,常に資料にあたり,正確な表記をむねとするのは最低のつとめであって。
まあそのくらい大変なのが時代小説家なのだが,よその国の昔の話ともなるとその谷はさらに深く険しい。
衣食住から言語,役職,宗教,交通,性生活,その他風俗習慣あらゆる項目について詳細な資料をしかも外国語であたらねばならず,その困難たるや想像を絶するものがある。
ところが,だ。数年前にひょいと登場したこの佐藤賢一,なんと異国の歴史モノを得手とする。しかも,日本人でも多少は人物,ファッションについて知らないでもないフランス革命やルネッサンス期でさえなく,得意な時代が中世,英仏百年戦争期という珍しさである。14世紀ですぞ,14世紀(もっとも中世人が徹底的に暗愚だったとはルネッサンスを贔屓しすぎで,すでに英知の萌芽はあったというのが最近の説らしいが)。
本書は,裏表紙の惹句によれば「十四世紀半ばの北フランス。百年戦争の果てない戦乱に蹂躙され,疲弊しきった農村に一人の男が現れた。人身を惑わす赤い目を持ったその男・ジャックに扇動された農民たちは理性を失い,領主の城館を襲撃,略奪と殺戮の饗宴に酔いしれる。燎原の火のように広がった叛乱はやがて背徳と残虐の極みに達し…。中世最大の農民暴動『ジャックリーの乱』を独自の視点で濃密に描く,西洋歴史小説の傑作。」
……百年戦争で日本人の耳に唯一馴染んでいる名前がジャンヌ・ダルクと思われるが(続いて青ひげ公ジル・ドゥ・レかな),ジャンヌ・ダルクが登場するのは同じ佐藤賢一の作品でも『傭兵ピエール』のほう。こちらは,農民暴動「ジャックリーの乱」……。うーむむむ。
と肩に力入れて読み始めたが,別に歴史の知識を要求されるわけでもなくすたすた読めて(極論すれば,イギリスとフランスの場所を知らなくても読める。どちらかといえば,イタリアの歴史を多少知っていたほうがよいかも),まぁ面白かったし,登場人物もなかなか個性豊か,最後のオチも,オチとは言わないかもしれないが,まあなかなかうまくまとめているし。
でも,一番の印象は,なんといっても────いやぁ,こんなえっちな小説とは思ってもみませんでした。勝目梓ほどではないが,花村萬月くらいにはえっちですねー。青少年諸君,電車の中で読むのはやめたまいよ。
ちなみに,本文庫を手にするのなら,絶対に巻末の作者による「あとがき」や細谷正充の「解説」を先に読んだりしないこと。とくに「解説」。ミステリでいえば犯人とトリックを書いてあるようなものです。まったく何考えてんだか,最低。
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