[書評以前] 『新耳袋 現代百物語 第六夜』 木原浩勝・中山市朗 / メディア・ファクトリー
【うわっ,人にはでけん】
実録怪談モノとして独自の地位を築いた『新耳袋』第六夜。新刊発行に併せ第一夜から平積みにしている書店が少なくないようだ。ご覧になってない方はぜひ手にとっていただきたい。
本書は怪異蒐集家の木原浩勝・中山市朗両氏がこつこつ集めた怪異譚集だが,他の怪談集との違いは,死体や墓地,血まみれの顔が,といったいかにもの怪談や因縁話を極力排し,市井の素朴な体験をそのまま掲載したことにある。そのため,たとえば一連の稲川淳二本がそうであるように,悲鳴を上げるような効果こそないが,逆になんとも説明のつかない不安感,突拍子のなさが残る。
ただ,何冊か出版されるうちに,蒐集側にそのつもりがなくとも,話を持ち込む側が似た話を持ち出す傾向が強くなるのは否定できないだろう。そのため,第五夜,第六夜ともなると,「前に似た話が出てこなかったかな」という話も少なくない。
ただ今回は京都にある「因縁」系のマンションについて小特集が組まれており(カバーの内側の本の表紙もそのマンションの写真だ)……いや,詳しくは直接お読みいただくのがよいだろう。ただしその結果,あなたの背後に
失礼,回線が落ちてしまった。これ以上そのマンションについて書くのは剣呑なので,ここでは烏丸が親しい者から聞いた話を紹介してみよう。
ずいぶん以前のことだが,烏丸の縁戚で,たて続けに不幸が続いたことがある。それぞれはとくにおかしな死に方ではないのだが,少々続き過ぎる。そのうち,伯母の葬儀から帰った別の伯母が,亡くなった伯母から分けてもらった十姉妹が鳥篭の中でそろって死んでいるのを発見して,これは何かおかしいということになり,祈祷師というか,そういう人に見てもらったのだという。するとその祈祷師はその縁戚の者の育ちや生業を見抜き,「山のほうにある,一族のお墓が荒れている。五輪の塔が崩れ,お地蔵さんも倒れている」と言ったというのである。一族のといってもいわゆる「本家筋」の墓であって,新しくて明治のもの,かかわる者は誰一人その墓がそこにあることさえ知らなかった墓地なのだが,車でそこを訪ねてみると,墓守の家があるような立派な墓地でありながら,荒れ果てて五輪の塔が崩れ,地蔵が倒れていたのだそうだ。
さて,慎重な方なら,ここまでいくつか気になる点があったのではないか。十姉妹が死んだのは姉の死に慌てた伯母が水や餌を忘れたせいだろうし,祈祷師は裏で依頼主の氏素性を調べたのではないか,などなど……。
そもそもこれは伝聞の話だし,今となっては確認のしようもない。ともかくその御祓いを境に縁戚の葬式はしばらくはおさまったのだからよしとすべきだろう。
烏丸自身の経験はそれから10年以上経ってのこと。仕事で知り合った若者が,家族や親戚に不幸が続き,かなり厳しい状況に陥った。それも,穏やかな病死とかいった様子ではなく,幼い子供まで含めてかなり異様な感じである。慰めるすべもなく,烏丸は大昔の祈祷師の言葉から,先祖の墓が荒れてないか,という意味の言葉を彼に告げた。若干の演出のために五輪の塔,地蔵のことまで含めて。すると彼は,週に何度も郷里と東京を往復したため,睡眠不足で黒ずんだ目を見開いて,こう言うのだった。
「この夏に田舎の……五輪の塔だの地蔵だの……どうしてそんなことまで知ってるんです」
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