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2001/07/01

ロジックのテトリス,薀蓄の上海 『九つの殺人メルヘン』 鯨 統一郎 / 光文社カッパ・ノベルス

051【赤ずきんちゃんには気をつけて】

 『邪馬台国はどこですか?』,『隕石誘拐 宮澤賢治の迷宮』,『とんち探偵一休さん 金閣寺に密室』等で知られる鯨統一郎の,またしても新作である。作者は保険関係の本職があるはずで,下調べに労力をかけそうな作風のわりにはさくさくと新刊が出てくる。怪しさのきわみである。
 それでも発売と同時につい手に取ってしまったのは,あの『邪馬台国はどこですか?』以来のバー・ミステリ連作とあるからだった。

 『邪馬台国はどこですか?』は,まれに見るユニークな作品である。カウンターだけの小さなバーで数人の登場人物が夜な夜な歴史談義を繰り広げ,結局はフリーライター宮田六郎の解釈が他を圧倒する。それだけのお話なのだが,「邪馬台国は東北にあった」「聖徳太子の正体は推古天皇」など,従来の教科書的知識では「まさか」と思われるような説が「なるほどそうだったのか!」と思えてしまうのである。もちろん歴史的資料をことごとく都合よく読みたがえた結果ではあるのだが,あれだけスジが通ればハンペンも引っ込むというものだ。何がすごいって,宮田の弁はそれぞれほんの数~数十ページにすぎないことである。教科書的認識なぞその程度で揺らいでしまうものなのだ。

 『九つの殺人メルヘン』は,『邪馬台国はどこですか?』同様小さなバーのカウンターが舞台となる。登場人物は渋谷区にある日本酒バーのマスター・島,常連の刑事・工藤,犯罪心理学者・山内(ちなみにこの3人はいずれも42歳で,山内のヤ,工藤のクド,島のシを併せると〈ヤクドシ〉トリオとなる),そしてグリム童話を研究する女子学生・桜川東子の4人。
 9つの短編は,いずれもまず日本酒の薀蓄に始まり,そこから回顧的な薀蓄合戦が展開し,そこから工藤の抱える難事件の話題が提供され,そのアリバイトリックを桜川が自分の研究するメルヘンの真相とからめてあっさりと解き放つ,という構成である。
 日本酒の薀蓄は,銘酒の名前や産地はもちろん,日本酒にはどんな米が使われているか,吟醸酒とは,といった話題。回顧的な薀蓄とは,42歳の厄年トリオらしく昭和30年代,40年代の遊びやヒット曲,CM,クイズ番組など。そしてメルヘンの真相とは,たとえば「ヘンゼルとグレーテル」や「ブレーメンの音楽隊」が実は……いや,これを書いてしまってはネタバレになってしまう。

 そんな短編が9つ。それぞれのアリバイトリックは,ミステリ作家有栖川有栖がある作品で登場人物に語らせたアリバイトリックの9つの分類を全部並べようとしたものだそうで,その意味でも凝った構成となっている。その割に「大変な作品を読んだ!」という気分にならないのは,いかんせん短い作品にあれこれ要素を詰め込みすぎて,まるで箇条書きになってしまったせいだろう。どちらかというと,文芸作品を読み終えたカタルシスよりは,コンピュータゲームの「テトリス」や「上海」を遊んだ手応えに近いのである。
 探偵役の桜川東子にしても,美人で明晰でと描かれてはいるものの,現実の女子大生,あるいは探偵としての手応えは希薄だ。逆にいえば,余計な要素抜きに薀蓄や推理を楽しめるということではある。しかも『邪馬台国はどこですか?』と違い,連作としての全体のオチも付いて作品集としてのサービスも改善されている。

 とか言いながら,実は一番ウケたのは次の一節なんだけどね。
「そう。犯人は疋田だ。」
「ファイナルアンサー?」
「ファイナルアンサー」

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