知ってるつもり?! 『キャラバンサライ』 サンタナ
【「着くまでもつか?」「ああ血がとまったから」】
もとやま礼子というマンガ家がいる。いた,と書くべきだろうか。久しく作品を見かけないし,単行本もこの20年,出していない。
手塚治虫が『火の鳥』を掲載した「COM」の月例新人賞でデビュー,70年代後半,つまり萩尾望都,大島弓子,樹村みのり,名香智子,伊東愛子,岸裕子,倉田江美らが描いていた頃の別冊少女コミックで異彩を放ち,その後ふっつりと消えてしまった。
光をたたえた大きな目,長い髪がたなびく,要するに一見オーソドックスな少女マンガふうの絵柄なのだが,ストーリーに目をやるとこれが骨太というか,若者の感情を大胆に描く作品が少なくない。恋愛が成就するか否かにはほとんど力点をおかず,日々の出会いから湧き出る感情のダイナミズムを太い線で描く,そんな趣。高校生の青年の,姉に対する恋慕を描く作品などにその傾向が顕著だ。タブーを描くというより,成就のあてのない,出口のない思いが素材として好まれたのではないか。また神社仏閣,紅白饅頭等といった,少々古風かつ和風の小道具も,もとやま作品の特徴の1つだろう。
決してメジャーな作家ではなかったし,活動期間も長くないので代表作と言えるほどのものはないが,単行本化された作品の1つに『やったぜ!墓場グループ』という連作がある。高校の近くの墓場にたむろする不良たちと,それにかかわってしまった少女・差久楽(さくら)の青春群像,といった趣のコメディ。もちろん四半世紀も前の少女コミックに登場する「不良」など,せいぜい学校の外でタバコを吸って酒飲んで殴り合いのケンカをする程度で,進学校に通っているぶん今どきなら模範的高校生といってよいほどなのだが。
と,前ふりが少々長くなったが,この墓場グループの最初の作品「墓場グループの誕生日」で,生徒会長の吉川にあこがれる差久楽が彼の部屋で聞かされ,ステレオもプレイヤーもないのに思わず買い求めるレコード,それがサンタナの『キャラバンサライ』である。
サンタナといえばカルロス・サンタナの泣きのギター,ラテンの情熱的なリズム,と,まあ,説明する必要もない,現役のメジャーバンドだが,この4thアルバム『キャラバンサライ』は,ウッドストックで名をあげ,「ブラック・マジック・ウーマン」等で功をなしたサンタナが,どんどん精神的な世界に傾倒していき,バンドとして方向性を見失う直前の,綱渡りというか神業のようなアルバムである。
「キャラバンサライ」すなわち砂漠の「隊商」をテーマにしたこのコンセプトアルバムで描かれた精神性というのは,キリスト教の教条主義とは少々色合いの異なる,砂漠の夜明けに立ち会ったら人は誰しも敬虔な気持ちになるとかいったそういうものだろうか。ラテン,官能的,エキゾチズムに加えて敬虔な精神性,という,言葉の上では並存できそうもないものが一つの夜の焚き木の中で燃え盛り,そのくせ全体には涼しい風が吹き抜けるようにクール,そんなアルバムだ。
もとやま礼子は,ほかの短編では,やはり不良少年たちのたまり場でポール・サイモンの「アイ・アム・ア・ロック」を小道具に使っている。これがまた,巧い。
揺らぐもの,揺らがないものがロックやマンガの切実なテーマとなる時代……そういうことだろうか。
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