これまたヒーロー復活 『大魔神』 筒井康隆 / 徳間書店
【だ,大魔神さまだ! 大魔神さまがお怒りになったのだ!】
(ナレーション)
ときは平成十三年。巷ではコミックやポップスのリメーク,カバーが相次ぎ,政界では二世,三世議員が永田町の利権を争う。人々は新しいヒーロー,ヒロインを産み出す力を喪い,底知れぬ不景気にあえいでいた……。
(シーン1)
おたく風の村人A 徳間映画があの「大魔神」を復活させると発表してもう1年以上経つんじゃが,いったいどうなったんだか。
おたく風の村人B ありゃあ1999年1月だったかのう。しかも,脚本が筒井康隆。どんな作品になるかわしら特撮ファンはわくわくしたもんじゃが,その後とんと便りもない。ポシャってしまったのかのう。
子供 たっ,大変だよう,本屋さんに,こんな本が。こんな本が。
(ごごごぉぉっ……と嵐の音)
(メイン・タイトル「大魔神」。スタッフロール
脚本 筒井康隆
カバー 寺田克也
カバー/ポスター 菅原芳人
帯・表紙 唐沢なをき
扉・本文挿画 沙村広明)
:
(だんだん面倒になってきたので,以下普通の文体で)
今や大リーガー・佐々木投手のニックネームのほうが通りのよい「大魔神」だが,ご存知の通り,これは1966年に上映された大映の特撮映画のタイトルである。具体的には
「大魔神」(1966年4月公開。併映「大怪獣決闘ガメラ対バルゴン」)
「大魔神怒る」(同年8月公開。いわゆる水の大魔神)
「大魔神逆襲」(同年12月公開。いわゆる雪の大魔神)
の3作。
公開年にご注目いただきたい。たった1年の間のことなのだ。
しかし,埴輪のように穏やかな顔の魔神が腕を顔の前にかざすや一転鬼のような形相に変じ,ずしぃぃん,ずしぃぃんと重い足音とともに城下を踏みにじる姿は毎回圧巻。この3作だけで「大魔神」の名はゴジラ,ガメラとともに特撮映画の代名詞となった。
演出的にも,重厚な時代劇設定はゴジラシリーズなどよりむしろリアリティを感じさせ,一方青をバックに前景を撮影,別に撮った後景と合成する「ブルーバックシステム」を初めて導入するなど,技術的なポイントも高い。
もしレンタルビデオ屋などで見かけたら,ぜひご覧いただきたい。馬鹿馬鹿しいまでの勧善懲悪ストーリーではあるが,それゆえ今見てもいっこう見劣りしない(さすがに3作目は少々お子様ランチの感があるが)。
さて,新作である。
「大魔神」を復活させるなら,方針は2つしか考えられない。1つは旧作と同じく時代劇とし,シンプルに押し切る。もう1つは現代,あるいは未来を舞台にし,思いきりSF色,カルト色を加味する(たとえば「ターミネーター」。あるいは「帝都物語」という手もあるか)。
はたして天下の異才・筒井康隆が選んだのは……。
実はこれが意外なことに,まったくオーソドックスな時代劇。多少スプラッタな要素はあるが,もともとが悪役人を踏みつぶしたり非道な領主を杭で突き殺したりする作品である。この脚本なら,1966年に公開されていてもまったく違和感はなかったろう(1箇所,お約束のギャグはあるが,どうも駄作と言われた平成「ゴジラ」の武田鉄矢登場シーンを思い起こさせて嫌な予感がよぎる)。
正直にいえば,筒井らしくねじれまくったシチュエーションSF「大魔神」を期待していたのだが,これはこれで1つの判断か。少々疑問な展開もあるが,映画は空間×時間芸術であり,脚本だけでは測れない面もある(単純な話,ヒロインの魅力だけでヒットする可能性だってある)。
とりあえず,徳間映画のお手並み拝見。
« [閑話] 何が足りない? 陽水の「花の首飾り」 | トップページ | ようやく発売! 『となりのののちゃん』 いしいひさいち,おがわひろし / 東京創元社 »
「時代・歴史」カテゴリの記事
- 真夏のホラー特集 その6 『耳袋秘帖 南町奉行と百物語』 風野真知雄 / 文春文庫(2025.08.28)
- 妙なものを見たようだな 『耳袋秘帖 南町奉行と逢魔ヶ刻』 風野真知雄 / 文春文庫(2024.08.26)
- 巡りあひて 『紫式部と藤原道長』 倉本一宏 / 講談社現代新書(2024.07.04)
- Vorne und Hinten 『ヒトラーと退廃芸術 〈退廃芸術展〉と〈大ドイツ芸術展〉』 関 楠生 / 河出書房新社(2024.06.03)
- 仕え甲斐がありますな 『新九郎、奔る!(16)』 ゆうきまさみ / 小学館 ビッグスピリッツコミックススペシャル(2024.04.18)
« [閑話] 何が足りない? 陽水の「花の首飾り」 | トップページ | ようやく発売! 『となりのののちゃん』 いしいひさいち,おがわひろし / 東京創元社 »


コメント