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2001/06/29

[追悼] 『ムーミン谷の冬』 トーベ・ヤンソン,山室 静 訳 / 講談社文庫

8【たったひとりでも,ぼくがむかしから知っているものがいるといいんだがなあ】

 「ムーミン」シリーズで知られるフィンランドの画家,児童文学作家のトーベ・ヤンソンが27日,ヘルシンキ市内の病院で亡くなったそうだ。
 トーベ・ヤンソンは1914年ヘルシンキ生まれ。父は彫刻家,母は商業デザイナーという芸術一家に生まれ,新進画家として活躍ののち,1945年に『小さいトロールと大洪水』を発表,以後1970年まで書き続けられたムーミンシリーズは世界各国で翻訳され,子供たちに愛された。

 日本ではアニメの影響もあって,「ムーミン」(ちなみにカバではない。トロールという一種のお化けである)は平和な谷を舞台に元気な少年を描くほのぼのストーリー,という印象が強いが,原作は文章こそ平易ながら,(第二次世界大戦の影と思われる)不安や寂寥感がどこかに漂う,少々前衛的な作風である。とくにムーミンパパを主人公にした一部の作品など,枯れた人生論,アフォリズムの趣で,児童文学と言ってよいものかどうか。
 もちろん残虐な事件が起こるとか,そういったことはないのだが,少なくともサザエさんやアルプスの少女ハイジのようにポジティブ一辺倒ではない。ムーミン谷は必ずしも明るく安全な領域ばかりではないし,また意思や言葉の通じない生き物も少なくない。また,アニメでは明るく活発なサブキャラたちも,原作ではよく言って個人主義,ありていにいえば身勝手だ。スナフキンは言うなれば世捨て人であって,決してムーミンの成長を見守る温かい先生というわけではないし,ムーミンパパも穏やかなばかりの人生を送ってきたわけではない。
 要するに,ムーミンは子供だが,その外側には大人の世界が広がっているのである。

 『ムーミン谷の冬』は,烏丸が初めて読んだトーベ・ヤンソンの作品で,確か国際アンデルセン賞の受賞作を集めた全集の1巻(エンジ色のハードカバー?)だったように記憶している。
 雪にとざされた厳しい冬を暖かい家で眠ってすごすトロール一家,ところが,主人公のムーミンが冬ごもりの最中にふと目を覚まして眠れなくなってしまい,暗い外に出て,夏には会えない生き物たちと知り合う,そんなお話である。
 全体に,あの,雪の日の音がこもるようなし……んとした感じがたちこめ,森の中でろうそくのまわりに雪玉を積み重ね,オレンジ色のランプのようにしたものなど,とくに事件というわけでもないのに30年経っても忘れがたい。

 たとえるなら,小学生3年生くらいの少年が,たまたま夜明け前に目を覚まして家族にこっそり家を出,大人の世界を垣間見る,そんな感じだろうか。
 大人たちは,自分の時間,領域に紛れ込んできた少年をかまうでもなく,突き放すでもなく,少年はやがて薄闇の中に胸を張る……。そして,夜明け。

 『ムーミン谷の冬』は,講談社文庫のほか,「ムーミン童話全集」「青い鳥文庫」(いずれも講談社)に収録されている。機会があったらぜひ手にとっていただきたい。

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