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2001/06/28

ジェットコースターSFバトルアクション 『コドク・エクスペリメント』(全3巻) 星野之宣 / ソニー・マガジンズ

4【私を殺せると…? 母親を!!】

 間の悪い作家というのがいる。恋を楽しめる気分ではないのに小粋で泣けるのを連発されたり,似たタイプの作家を追っかけた直後で最初から倦怠感が漂ったり。
 星野之宣はそんな作家の1人で,SF,実力派,繊細かつダイナミックで実験的な画風ときたひには我が家の本棚にコーナーがあってよさそうなものだが,実は5,6冊しか持っていない。

 最新作『コドク・エクスペリメント』は宇宙を舞台としたストロングスタイルのSFバトルアクション。
 この「コドク」は「孤独」でなく「蟲毒」の意。蛇や蜘蛛,百足,蠍といった毒虫を壺の中で闘わせ,最後に生き残ったものから最強の猛毒を抽出する呪術のことである。
 昨今のホラーコミックでは定番の術の1つで,石川優吾『童乱(タンキー)』にはシンガポールの企業を壺,社員を毒虫とみたてる術師が現れ,諸星大二郎『諸怪志異』シリーズにもビターな蟲毒譚が一編収録されている。最近では高橋留美子『犬夜叉』で主人公の宿敵・奈落がこの術を利用した。
(「蟲毒」は,中国に古来伝わる呪術,と紹介される場合と,当節流行の陰陽師関連の術として取り上げられる場合とに分かれる。これらコミック,ホラーの中で一番最初に取り上げたのはいったい誰のどの作品だったのだろう?)

 物語は,巨大惑星の潮汐力によって崩壊寸前の衛星・デロンガVアルファに置き去りにされたキャノン伍長が,獰猛な肉食獣に追われながら復讐を誓うシーンから始まる。その「コドクエクスペリメント(実験)」が生み出した最強の生物とは……。
 この後は粗筋を書くのも面倒なくらい,途方もない怪物とアクションのオンパレード,一度読み始めるともう途中下車はできない。その分細かい所を読み飛ばして「おや,コドクエクスペリメントとはいったい誰の何のための実験だったっけ」と疑問が残ったりするのだが,地球征服を狙う悪の結社が幼稚園バスを乗っ取ることを思えば些細な問題だろう。

 星野作品の作法はハリウッド大作SF映画に通ずるものがあり,本作でいえば前半は「エイリアン」,後半は「マトリックス」か(最近文庫化された恐竜SF『ブルー・ワールド』も「ジュラシック・パーク」+「ポセイドンアドベンチャー」だと思えば間違いない)。その分,人間存在を不安に揺らすような(ありていにいえば文学的な)含みはない。稀代の猛女カミラ・バグレス准将も煎じ詰めればシンプルな暴君だし,対する善玉たちの嘆き,怒り,愛情等もマンガとしかいいようのない描かれ方で,安心といえば安心,陰影に欠けるといえば欠ける。
 もっともノンストップジェットコースターが成立するには凝りすぎた性格付けはまず邪魔で,このあたりを作者の人間描写の限界と見るか,プロとしての切り捨てと見るかは悩ましいところだ(それにしても星野作品の登場人物たちはどうしてこう誰も彼も前・思春期的,つまり子供なのだろう? 島本和彦のキャラとの違いを考えてみるのも面白いかもしれない)。

 もう1つの注目点は,バグレスを包む重力ボール等におけるCG(コンピュータグラフィックス)の多用だ。コミック作品ではCGが定着して久しく,昨今はすべてディスプレイ上で描かれた作品もあるようだが,それにしてもグラフィックツールの画像処理がこれほどはまった作品はあまり記憶にない。アイデアの元はあのスクリーンセーバーと読んだが,果たしてどうか。

 ともかくアクションSFとしてはA級,お奨めである。B級でも超A級でもないところが若干問題ではあるのだが──。

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