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2001/05/22

出版バブル崩壊,流通パニックへの百の予兆 『出版大崩壊 いま起きていること,次に来るもの』 小林一博 / イースト・プレス

82【腐海のほとり】

 本や雑誌といったペーパーメディアの売れ行きが悪いというのは少し前から言われていることである。最近はコミックさえ不調,とよく耳にする。若者の活字離れ,ブックオフなど新古書店に圧迫を受ける新刊書店……しかし。そんな認識は甘い,今出版の現場に起こっていることはもっとずっと深刻で,もっとずっと危険だ,というのが著者の主張である。

 たとえば,書籍の場合,発行から約6か月間,書店店頭に置かれ,6か月が経過したところで売れなかった本は版元に返本される。そこで売上が確定するわけだ。ところが,ごく一部の大手出版社に限り,書籍を納入すると本来7か月後にもらえるはずの売り上げ金を取次からなんと即金でもらえるのだという。で,7か月後に返本数と調整して精算される。
 なんとも甘い優遇だが,これら大手出版社の本が売れ続けている間はまだよい。ところが,最近のように本が売れなくなると,返本がかさむ。当然,精算時に赤字が発生し,出版社から取次に膨大な返金が必要になる。そこでどうするかというと,返本時までにともかく本を作り,取次に卸す。すると,あら不思議,刷った本の数だけお金がもらえる。
 しかし,粗製濫造の本がそんなに売れるわけもないから(返本率50%はおろか,70,80%の書籍もざら),精算するとさらに減益。だから,さらに新刊を発行して取次に……。
 という構図で,ここしばらく新刊書籍の点数が増大し(70年代の約3倍),その一方で本が売れず書店が1万店規模で減っているため書店の売り場を圧迫,長期間置いておけば売れそうな本も(ひどい場合は箱も開けずに)返本に回る。

 この悪循環で,もはや業界最王手の講談社でも,『五体不満足』400万部という超スーパーヒット(なんだそうな。知らなかった)をもってしても書籍部門の赤字がまかなえなかった,というのである。ほとんどサラ金に手を出しての自己破産パターンではないか。

 ブックオフ等の新古書店と出版社間のトラブルというのも,読み手が新刊を買わなくなる,程度の問題かと思いきや,
(1) 一部の赤字に苦しむ出版社が返本を断裁するよりマシと新古書店に売って再販モラルを崩す。
(2) 旧来の古書店と違って古本持ち込み時に客のチェックをしないため,書店店頭の万引きが増える。書店の利益率は低いので,1冊万引きされると同額の本を5,6冊売らないと赤字。
(3) 一部の書店が新古書店やマンガ喫茶の在庫(つまり古本)を返本と称して出版社に返本(定価の7割近くが返金される……立派な詐欺)。
といった,重く苦い問題を含むのだそうだ。とくに3つ目は,実は地方の新古書フランチャイズ店は新刊書店と同じ経営者によるものが多く,組織的な犯罪の可能性もあるらしい(返本の中に,スリットがない,カバーと中身が違う,マンガ喫茶のハンコが押してある(笑)などが増えているとか)。

 このほか,雑誌の売上・広告の低落,大型書店開店時の優遇とそれに起因する市場在庫逆流の危険など,さまざまな問題が明らかにされる。以前から出版業界の問題を内部告発する本はあったが,ここまで深刻な内容のものではなかった。これらが事実なら,バブル崩壊の大パニックは目前である。

 著者は出版社,取次,書店それぞれに向けて,悪循環からの脱却を主張するが,閉鎖的でプライドの高い出版業界に変化への適応ははたして可能なのだろうか。
 三度の飯よりの本好きとしてはまこと心配な限り。食欲がわかなくて,本書と一緒に購入してきた『だれが「本」を殺すのか』(佐野眞一,プレジデント社)もまだ開く気にならないのだ。

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